- 完全リモートで全世界に散在する超効率的な組織は、可能でしょうか?
- 実は、可能なのです。
- なぜなら、GitLabがすでに存在をもってそれを証明しているからです。
- 本書は、GitLabという次世代企業が何をしているのかをレビューした1冊です。
- 本書を通じて、効率性とは何かを考えるヒントを得ます。

オールリモートは可能か?
GitLabという企業をご存知でしょうか。
今日では当たり前となったソフトウェア開発。しかし、複数の開発者が同時に作業を進め、コードを管理し、テストを実施し、さらにはセキュリティも確保する・・・このプロセス全体を効率的に進めるのは、実は大変な挑戦なのです。
そんな開発現場の課題を一気に解決してくれるのが、GitLabというプラットフォーム。2011年の設立以来、世界中の開発チームから支持を集め、今では Google、Sony、Nvidia といった大手テック企業も採用している注目のサービスです。
GitLabの特徴は『オールインワン』。これまで開発者たちは、コードの管理には GitHub、プロジェクト管理には Jira、CI/CDには Jenkins・・・というように、複数のツールを使い分ける必要がありました。しかし、GitLabでは、コードのバージョン管理から、チームでのレビュー、自動テスト、デプロイまで、開発に必要な機能がすべて1つのプラットフォームに統合されています。
さらに興味深いのは、GitLab自体がオープンソースとして開発されていること。世界中の開発者がGitLabの改善に参加でき、その恩恵を受けられる仕組みになっているのです。
そして何より特徴的なのが、GitLab自身の働き方です。GitLabは創業以来、全社員がリモートワークで働く『All-Remote』という働き方を実践しています。オフィスは存在せず、65カ国以上から2,000人を超える従業員が、それぞれの場所で働いています。
多くの企業がコロナ禍でリモートワークへの移行に苦心した2020年、GitLabはすでに7年以上の全リモート経験を持っていました。彼らはリモートワークのプロセスや規則をすべてオープンに公開し、『GitLab Remote Playbook』として世界中の企業の参考となりました。
この徹底した『All-Remote』文化により、GitLabは時差のある国々のチーム間でも、自然なコラボレーションを実現しています。また、場所に縛られない採用により、世界中から最高の人材を集められることも、大きな強みとなっています。
まさに、GitLabは自社の働き方自体で、地理的な制約を超えたグローバルな協働の可能性を証明しているのです。
キーは、オールリモートであっても高い生産性を担保できる組織運営にあります。その鍵を握るのが、本書でも主役となる、テキスト・コミュニケーションという技術になります。
本書は、世界でも有数のドキュメント作成ノウハウを持っているGitLabを参考にした「ドキュメント作成」や「テキストコミュニケーション」の入門書
GitLabでは、すべてのチームメンバーがドキュメント作成するスキルを身につけると言います。それもそのはずです。オールリモート状態では、ドキュメントがコミュニケーションの質を左右するためです。
ドキュメントの力とは?
ドキュメント作成をする前提のマインドセットとして、「相手に伝わるかどうか」という視点は、欠かせません。ドキュメントが作成される目的は、相手に情報を伝えることにあります。
ドキュメント作成スキルとはつまり、「適切に情報伝達できるドキュメント作成スキルを身につけること」であり、そのためのトレーニングを行っていくことであるととらえられます。
テキストベースのコミュニケーションは、オーラルよりも難しい面があります。
それは、「相手を傷つけやすい」ということです。なぜなら、感情がのらないから。文字以外の余計な情報がないからこそ、端的に情報が伝わるというメリットと引き換えに、感情面でのフォローがないため、誤解を生みやすいのも事実です。
言語化が得意な人にとっては、心地よいものがあるかもしれませんが、はじめから言語化が得意な人はそうそういないのも事実。そういう方にとって、とっつきにくく、あるいは避けて通るものとしてテキストコミュニケーションが捉えられがちなのはうなづけます。
こうした前提を持って、いかに、正確な、そして、ときに感情面も含めてコミュニケーションを行っていくのか?までを網羅的に伝えているのがGitLabなのです。
GitLabは、世界あらゆる都市に従業員やパートナーを抱えています。彼らは、「常識」も「活動時間帯」も、そして「文化」「価値観」さえもバラバラです。そうしたメンバーを一つにまとめていくためには、テキストコミュニケーションのメリット、つまり情報を正確に届ける力を持つということを最大限に活用していく他にないのです。
GitLabでは、公式情報はハンドブックのみに集約するというルールを決めています。
この方法は情報システム設計の用語「SSoT」によります。これは、SSoT=Single Source of Truth、信頼できる唯一の情報源という意味です。
誰もがGitLabのルールを知りたければ、ハンドブックというバイブルを読み、そのとおりに行動することが前提となります。これは、どんな立場の人であっても例外はないと言います。
また、もう1つ重要なルールとして「GitLab Handbook」に書かれている内容というのは、“常に下書き”であるということです。
つまり、より良い判断基準やより明瞭な表現が見つかれば常に改善を続けていくという宣言をしているのです。
こうしたルールの明確化と、アジャイルな変化を厭わない思考によって、オールリモートであっても、非常に生産性の高いコミュニケーションがシーンや場面で適切に行われる組織として成功を収めてきました。

目的志向になれる?
GitLabの真骨頂は、「アジェンダ(議事日程)」と「ミーティングノート(議事録)」です。
これらは、GitLabの生産性を根幹から支えています。それぞれ提携のフォーマットを用いながら、それに触れるすべての人を目的志向にすることができます。
- 何のためのミーティングなのか。
- 何を議論するべきなのか。
- 何を決めることがゴールになっているのか。
- 何がわかっているのか。何がわからないのか。
これらの情報に触れることで、人々の力をひとつに集約して、連携をすることができるようになります。
パフォーマンスの非効率は認識の違いから生じる
これは仕事の現場において、普遍的な事実です。
人がチームになる時、どうしてもコミュニケーションの必要性が発生し、それを怠るとむしろチームの力(複数いる力)を超えるだけのマイナスの圧力が生まれてしまいます。そうなっては元も子もないのです。
認識のズレは、実はドキュメントを正しく作成すること、一定のルールを運用することで、解決することができるのです。
またとくに重要なのが、定義です。
どういう言葉をどんな定義として運用しているのか、あるいは、それをチームのメンバーと共有することができているのかについて、気を使うことで、認識のズレを予防・排除することができるようになります。
定義についての共有度合いについては、ジャルヴァース・R・ブッシュ、ロバート・J・マーシャク著『対話型組織開発――その理論的系譜と実践』における「認識のレベル」が参考になります。
認識のレベル | 概要 |
---|---|
社会文化レベル | 国家、業界などの幅広いレベルで認識され、支持されている認識 |
コミュニティレベル | 組織、団体、地域などにある支配的な考え方、習慣、共有される社会的視点 |
対人間・グループレベル | グループや特定のメンバーとの直接的な相互作用を通じて構成される認識 |
個人レベル | 個人がストーリーや印象、ジェスチャーなどを利用して伝達する方法 |
個人の内面レベル | 個人の深淵や社会をどのように解釈しているかという認識 |
この5つのレベルを参考にすることで、相手の認識を整理し、メッセージを伝えるうえでの効果的な共通認識づくりをすることができるようになります。
他人に対して物事を説明するときに「十分なコンテクストを提供しなさい」とGitLabがいっているのも、あなたが持っている感覚や感情も含めてドキュメントにアウトプットすることで、認識の違いを乗り越えるヒントになるからなのです。
日本では、長らく、非言語のコミュニケーションが重視されていました。相手のことは慮るのが常識で、言葉にするのは野暮であるという風潮が確かにあったことは事実でしょう。
でも、GitLabとまではいかないにせよ、新しい働き方が一般的になる中で、さらには、ダイバーシティ、インクルーシブな考え方を遵守するという動きの中で、テキストコミュニケーションの必要性は年々増大しているように感じます。
GitLabのように言語化をすることは、実はAIとの協働にもフィットしていきます。なぜなら、AIとの共通言語は、まさしく言語であるからです。AIをパートナーとして迎え入れていくためにも、実はテキストコミュニケーションはとても重要なOSとなることが、想像することができるでしょう。
GitLabに関しては、こちらの投稿「【カルチャーは、バリューによる?】GitLabに学ぶ世界最先端のリモート組織のつくりかた|千田和央」と「【バリューを高めるには!?】GitLabに学ぶ世界最先端のリモート組織のつくりかた|千田和央」もぜひご覧ください。


引き続き次回の投稿でもGitLabについて深くみていきましょう。GitLabのルール・行動指針を取り上げてみたいと思います。
まとめ
- オールリモートは可能か?――GitLabという世界組織が、むしろ効率的に運用しています。
- ドキュメントの力とは?――一定のルールで運用することで正確性をもたらします。
- 目的志向になれる?――他者と目的を共有することで初めて“チーム”になることができます。
