人を中心にした物語?『人を動かすナラティブ なぜ、あの「語り」に惑わされるのか』大治朋子

人を動かすナラティブ なぜ、あの「語り」に惑わされるのか
  • どうしたら、人を動かすための方法を身につけることができるでしょう。
  • 実は、大切なのは「ナラティブ」にあるかもしれません。
  • なぜなら、「ナラティブ」こと人の認識の形を作り上げていくからです。
  • 本書は、「ナラティブ」とは何か、そしてそれはどのような構文によって機能するのかを知る1冊です。
  • 本書を通じて、情報加工のヒントを得ます。
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ナラティブとは?

冒頭の通り、「ナラティブ」があれば、人の心をつかみ、そして、人を動かしていくことが可能になります。

では、「ナラティブ」とはなにか・・それは次の要素を具備した語りであるということです。

  • 複数のできごとが時間軸上に並べられていること。
  • プロット(筋立て)が加えられていること。
  • 最終的に、上記がストーリーとしてまとめられていること。

例えば、「私は早起きをした。天気が良かった。会社に遅刻した」という表現があったとしてみましょう。

これはたしかに時系列の要件を満たしていますが、聞いている人からすると、「それで・・?」という感じです。これだけでは、人の心も、行動も動きはなかなか期待されないでしょう。

さらに上記の例文に1ワード(しかし)を加えて以下のようにしてみたらどうでしょう。

「私は早起きをした。天気が良かった。“しかし、” 会社に遅刻した」

一定のストーリー性を纏うことを、誰もが認識できるようになるです。

さらに、「ナラティブ」が深くストーリーを見いだせるようになるためには、語り手と聞き手の関係性というファクターも左右してくることに気づきます。

ナラティブは人の心をつかみ、人を動かす。

上記の文章だけでは判断できませんが、上記のやり取りは、もしかしたら、上司と部下かもしれないし、親子かもしれないし、10年ぶりに会った友人同士かもしれないし、そうしたことを加味していくと、さらにやり取りに複雑性がはらんできます。

ナラティブは、レンズ?

養老孟司さんは、東京大学の教授時代の講義を振り返り、次のようなことを述べられたといいます。

私は解剖学でしたが、体はこうなっていると教科書で書いても学生は読みません。だから実習をさせるんですね、実際にどうなっているかを見せる。そうすると、学生なりに、まあ何が書いてあるかを理解してきますね。時間とともに生起する事象を頭の中に入れるには物語にするのが一番効率がいいというか、わかりやすいと言うか、それは経験的にわかっています。

そんな養老孟司さんは、ベストセラー『バカの壁』において、脳内には「一次方程式」があるということを語っています。

y(出力)=a(係数)x(入力)

「x」は、人間が五感から入力した情報です。
「a」は、変化する数値であり、個人が持つ「現実の重み付け」です。

脳内で回していく、つまり世界を認識するには、上述のような式による認知と判断をしているというのです。
そして、著者の大治朋子さんは、この「a」こそがナラティブであると考えます。

ナラティブとして語られていればこの「a」を活用して、人の心の反応や行動というy(出力)を一定得ることを期待できるのです。

ナラティブを考えるために、語感を鍛えてみましょう。以下の3つの文章を比べてみましょう。

1)昨日、飲みすぎたので、今日は体調が悪い。
2)酒を飲みすぎると、翌日、体調が悪くなる。
3)飲みすぎた日の翌日は、体調が悪いことが多い。

1は、個人の体験や感覚を時系列的に並べているもので、ナラティブモードへの足がかりであると言えるでしょう。

2は、普遍性を帯びており、3は、1と2の間くらいに、位置するでしょう。3は、とくに経験を根拠に確率的に述べているところがポイントです。

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ナラティブとは、実は対話!?

実際にナラティブ・モードは、脳の働きも異なるのだそうです。

ナラティブと対比できるものとして、論理科学モードというものがあるでしょう。論理科学モードを、事実に基づいた内容を示すものです。

東北大学大学院医学系研究科生体システム生理学分野の教授である、虫明元さんは次のように述べられています。

ナラティブ思考は事実に基づいた思考というより、自由な物語の想像を許す思考です。人でないものを人に見立てたり、擬人的な思考や、事実を否定した反事実的な思考も含まれてきます。

ナラティブ・モードは、事実に基づいた思考というよりも、「自由な物語の想像を許す思考」です。人でないものをまるで人に見立てたり、擬人的な思考や、事実を否定した反事実的な思考も含まれてきます。

ナラティブ・モードにあるということは、自由に発散的な思考を、受け手に与える可能性を秘めていると言ってよいでしょう。

また、ナラティブの可能性を捉えていく時に、ジョハリの窓を持って見つめてみるとさらに解像度が上がっていくでしょう。

自分が知っている自分が知らない
他人が
知っている
開放の窓
(Open Area)

• 自分も他人も知っている領域
• 誰にでもオープンな特性
• コミュニケーションが活発な状態
盲点の窓
(Blind Area)

• 自分は気づいていないが他人は知っている領域
• 自己認識できていない特性
• フィードバックで気づく可能性がある部分
他人が
知らない
秘密の窓
(Hidden Area)

• 自分だけが知っている領域
• 意図的に隠している特性
• プライベートな情報や感情
未知の窓
(Unknown Area)

• 誰も気づいていない領域
• 潜在的な可能性や才能
• 新しい経験で発見される部分

他者との関係性というのは、上述の内「開かれた窓」で構築されていきます。他者とナラティブを交換する中で、私たちは自分自身を映し出すように認識していきます。そして、他者から徐々に承認を得ながら、自尊心を育んでいきます。

「開かれた窓」をできるだけ大きくすることは、結果的に個人にも社会にも望ましい。まさに「開かれた社会」を実現することになるからだ。

互いの対話によって、ポジティブな言葉を掛け合いながら、互いを開放的にして、自尊心を高めて、ストレスや負荷に耐えうるレジリエンスも強めていくことが理想でしょう。

そうして、互いの背景情報をやり取りしながら、まさに「ナラティブ」に情報をやり取りできる関係性を構築していくことが、実はとても重要なのです。

そして繰り返しになるが自己の心と体、自己と他者といった関係性をつないでいくのがナラティブ・モードの語りであり、それをつかさどる社会情動(非認知)スキルだ。

相手ありきのコミュニケーション、そこにナラティブを立ち上げていくヒントがあります。

対話については、こちらの1冊「【対話こそが変革を生む!?】企業変革のジレンマ「構造的無能化」はなぜ起きるのか|宇田川元一」もぜひご覧ください。

まとめ

  • ナラティブとは?――時系列情報に、プロット(筋立て)を与えストーリーとして語られるものです。
  • ナラティブは、レンズ?――係数のように情報を受け取るヒントとなり続けます。
  • ナラティブとは、実は対話!?――互いの背景を知ることがキーです。
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