- どうしたら自分の脳の機能をフルに活用することができるでしょうか。
- 実は、アイドリングの力を活用することです。
- なぜなら、脳は蓄えた知識を無意識下につなぎ合わせる機能を持っているのです。
- 本書は、ひらめきを科学する1冊です。
- 本書を通じて、発想を豊かにするための思考力のヒントを得ることができます。
エコな脳?
AIと人間の脳の挙動を考えたとき、決定的に異なるのが、一定のアウトプットを創り出すために必要なデータ量です。AIは膨大な人間がつくり出したアウトプットを食べることで、ひとつひとつの要素の関係性を知ることで、特定のインプットに対してそれらしいアウトプットを創り出すことができます。
しかし、一方で、人間は、そんなに大量なインプットは必要としません。少量のデータで駆動して、何らかの発想を生み出す脳はとてつもない機能を持っているのです。
これらを直感・創造性と私たちは呼びます。
どうしてこんなことが可能なのか?
簡単に言い表すことはできませんが、1つ確実に言えるのは、脳は、いえ脳に限らず今ある生命体は、40億年かけて開発されてきた進化のたまものだということです。
人間の科学が始まったのはほんの数百年前、そして、私たち人類(生物)の歴史は40億年。この途方もない時間が積み重ねた進化の歴史の中で、私たちが体得したものは、それ相応のものであるのです。
脳の機能を見つめてみましょう。
まず、記憶というものは、ニューロンによって作られます。
ニューロンの仕事は、情報を伝えることです。
1つのニューロンの細胞内では、電気信号によって情報が伝わっていきます。ニューロンとニューロンのつなぎ目では、いったん電気信号は途絶えます。つなぎ目には僅かな隙間があり、この隙間に化学物質が放たれ、反対側でキャッチされることによって、信号が伝わるのです。
実は脳のメカニズムは化学的な反応によるものなんですね。
つなぎ目のことを「シナプス」といいます。人間の脳全体には約1000億個のニューロンがあり、シナプスを通じて、互いにネットワークを構築しているのです。
そのネットワークは想像するのも難しいほどの複雑さを有しています。
何かを記憶するとき、脳では1つの記憶に対して、1つのニューロンのグループが割り当てられると考えられています。これを「セル・アセンブリ仮説」といいます。
セル(cell)は、細胞。アセンブリ(assenbly)とは、特定の目的のための集まりを指します。
睡眠がキー?
直感や発想を支えるものは、記憶と記憶の連合です。
互いに似た記憶は、対応するニューロンがオーバラップすることがわかっており、これらの連合によって、連想が生み出されます。
オーバラップの度合いが大きい(共有するニューロンが多い)ほど、一緒に思い出しやすいと推測することができます。
これが、ある事柄を思い出したときに、同時に連携する事柄を思い出す仕組みの基本的な原理です。
こうした脳のファジーな機能が、人間に直感や想像力を生み出す要因の一つになっていると言ってよいでしょう。
そして、こうした機能が活性化するのが、「何かに集中していない」ということです。
おそらく何かに集中していると、人間の脳はアイドリングの働きを抑えてしまうものだと考えられています。
単純な作業や運動をしてもよいですが、頭はぼーっとしているのが、アイドリングを働かせるキーです。
突然のひらめきや独創的なアイデアは、ゼロから生み出す無関係な考えというよりも、思いも寄らない組み合わせ、記憶の連合の産物であるということです。
こうしたひらめき状態を生み出すためには、いかに記憶の整理を行っておくかも大切でしょう。実は、この記憶の整理というのは、睡眠中に行われることがわかっています。
何らかの体験によって、断片的に記憶が生成されますが、これらの記憶を担うニューロンが睡眠中にその40%ほどが再び活性化していたのです。
これは「リプレイ」とよばれている現象です。
睡眠中に無意識に記憶が思い出されており、その過程で、記憶の断片に「選抜」と「定着」が起きています。
一方で、起きて活動しているだけでは上記の「選抜」と「定着」が起きることはありません。
- 睡眠中にリプレイすることによって、記憶が定着している。
- 覚えておくべき記憶と忘れる記憶を選別している。
- 覚えている記憶の断片だけをリプレイしている。
こうした過程は、当然個人差が生まれます。だから、過去に同じ経験をした人同士でも、記憶違いが生み出されるのは、こうしたことが原因であると言えるでしょう。
放置戦略が有効?
記憶は一回覚えて、思い出して、そして思い出すたびに記憶は不安定化します。曖昧な状態で記憶が思い出されて、そこからまた固定化されていくということを繰り返し、長期的な記憶になっていきます。
なぜ、こんな面倒な仕組みが備わっているのかは、まだわかっていないそうですが、これが、おそらく生存戦略と関連しているのではないかと考えられています。
過去の記憶を似たような新しい体験と一緒に再固定化して、普遍的な記憶にアップデートしたほうが合理的だし、コスパがいいからではないでしょうか。
さまざまな体験をして、記憶の断片を生成して、それを睡眠を通して、整理する。そのことが、私たちが脳に対してできる唯一のことです。体験と睡眠を大切にすることがキーです。
限られた情報をもとに、考えを巡らせることを「推論」といいます。
推論に関して、脳の活動がどのように影響しているかは、以下のように明らかになっています。
- 推論をするには、睡眠が必要であること。
- ノンレム睡眠中やレム睡眠中における同期活動が必要である。
- 睡眠中の大脳前帯状皮質の神経活動が重要である。
- ひらめくときには、新規のニューロン群れが活動する。
ノンレム睡眠で記憶を整理して、レム睡眠で学んでいないことを「推論」して答えを導いているのです。
つまり、まだ見ぬ、見るかどうかもわからない将来の事態に備えて、脳は絶えず準備をしていると言ってよいでしょう。
ひらめきのタネは、寝ている間に作られているのです。直接、経験をしていなくても正解はすでに脳のなかにあるのです。あとはそれをどう意識に上らせるか、なのです。
すでに私たちの脳は、直感的にものごとの本質と正解を見つけています。
リラックスの時間を設けて、ぼんやりと思考をめぐらせてみることを検討してみましょう。うつらうつらしているときもとてもいい時間です。脳が意識と無意識の間を行ったり来たりするため、アイデアが生み出されやすいのです。
私たちが、直感やひらめきをより活かせるようになるためには、「アイドリング脳にいかにがんばってもらえるか」が重要です。
ポイントを以下のように整理します。
- 特定の課題や問題について、速くに、少しだけインプットしてみる。
- それを放置して、充実した睡眠時間を経る。
- リラックスタイムを設けて、ちょっと思い出して考えてみる。
ポイントは、早めのインプットと放置です。
すでに、私たちの脳は、正解を知っているのです。無意識下にある、答えをどう引き出すことができるのか?というマインドセットで、脳に知識と睡眠という栄養を与えてみましょう。
無意識に関しては、こちらの1冊「【脳は、YES!?】意思決定が9割よくなる 無意識の鍛え方|茂木健一郎」も大変おすすめです。ぜひご覧ください。
まとめ
- エコな脳?――限られたインプットから連想できるのが、私たちの脳のすごいところです。
- 睡眠がキー?――睡眠によって記憶の選別と定着が行われています。
- 放置戦略が有効?――早期インプットをして、放置してみることがキーです。