- 何が進化のキーでしょうか。
- 実は、失敗との向き合い方かも知れません。
- なぜなら、人には失敗から学べる思想があるためです。
- 本書は、失敗のメカニズムと向き合うための1冊です。
- 本書を通じて、失敗を失敗で終わらせずに、その後のよりよい状態を作るヒントを得ます。
失敗はなぜ見直されないか?
本書の著者マシュー・サイドさんは、英国の『タイムズ』紙の第1級コラムニスト、ライターをつとめるかたです。本書は、各種業界にまつわる実際の失敗エピソードについて深堀りをしながら、失敗といかに向き合うことができるか?という論点について多くの示唆を提供してくれます。
冒頭で、2つの業界が比較されます。航空業界と医療業界です。
航空業界は、これまで人類が初めてのフライトをしてから、多くの犠牲を払いながらも、その原因を解明し、飛行機事態の性能や機能、さらには運行・メンテナンスノウハウ、人のミスについて知見を深め、共有し、事故がほとんど起きづらい、あるいは、万が一起きたとしても、原因を究明し次につなげる仕組みを構築してきました。
機材のトラブルという側面だけではなく、人間の心理にも触れます。
例えば、コックピット内の人間関係にあまりにヒエラルキー要素が含まれると、正直なコミュニケーションが難しくなり、危機をチームで回避することが困難になります。そのため、航空業界では、絶えず、上下関係にだけによらないフラットなコミュニケーションを意識する研修が行われています。
一方で、医療業界はどうかというと、ミスや失敗が隠蔽されやすい状況がこれまでも続いています。
原因はいくつかありますが、まず思い当たるが、医療オペレーションの複雑さです。世界保健機関(WHO)は1万2420種類の疾患や障害をリストアップしていますが、それぞれに処置の手順が当然異なります。
この複雑さによって、診断から治療まであらゆる時点でミスが起こりやすくなります。
また、資金や人手不足という側面もミスを誘発しやすい原因となります。医師は過労状態であることが多いのですが、たいていの病院の場合新しい医師を雇う資金が不足している場合もあります(世界水準)。
そして、医師は極限の状態で常に働いているという事実もあります。患者の状態は時々刻々と変化します。すぐに対処しなければならないことが連続して起こる可能性もあり、相当の集中力と、そしてその場での判断力と応用力が試されているのです。
治療の選択肢をすべて考えている時間などはなく、タイミングが間に合わなければ、最終的に「正しい」判断を下したところで遅い・・ということもありうるのです。
現在世界で最も尊敬を集める医師の1人、ジョンズ・ホプキンス大学医学部のピーター・プロノボスト教授は、2014年夏の米上院公聴会で次のように発言した。つまり、ボーイング747が毎日2機、事故を起こしているようなものです。
回避可能な医療過誤による死亡者数は、年間40万人以上にのぼると算出されているのです。
航空業界にあって、医療業界にないもの、それは、日常的なデータを収集し、それに基づき客観的な判断を繰り返していくという仕組みです。
データを集め、分析する?
私たちは、「自分自身」から失敗を隠します。
人は誰でも、自分の失敗を認めるのは難しい。
ほんの些細な失敗でもそうです。友人同士の気楽なゴルフ、仕事でのメールの言い回し、スケジュールの失念などなど、よくあるミスについてもとっさにそれを全力で受け入れることは難しいものです。
失敗を認めるのは、もう別次元の難しさになる。
それはなぜか・・!?
何かミスを犯して自尊心や職業意識が脅かされると、私たちは頑なになってしまうのです。
自分自身に対してさえそうなのですから、相手のその失敗が指摘されたり、知られたりすることについて、心理的安全性が担保されない場合、さらに頑なさは増大します。
仕組みや場が整っていない場合、誰もが失敗を隠すようになります。学習には欠かせない貴重な情報源を、活用することもないまま葬り去ってしまうことになるのです。
失敗から正しく学ぶためには、目の前に見えていないことも含めて、すべてのデータを集め、考慮し、そして分析し、客観的な視点を持って、学びを深めていくことが重要です。
失敗から学ぶのは、いつも簡単というわけではないのです。そんな時に注意深く考える力と、物事の根底に真実を見抜いてやろうという意志が不可欠です。
進化を味方に?
1601年、ジェームズ・ランカスター艦長は、海上で死者を出す最大の原因だった壊血病を予防する実験を行いました。4隻のうち1隻の船員に1日スプーン3杯のレモン汁に飲ませました。すると他の3隻では、航海の中間地点までに船員278人のうち110人が壊血病で死亡したのですが、レモン汁を飲ませた1隻の船員は全員が生き延びました。
これはとても重大な発見だったはずです。貴重な人生の命を守るわけですから。
しかし、イギリス海軍がこの発見に沿った新たなガイドラインを制定したのは、驚くべきことに194年も後のことでした。さらに、英国商務省が商船隊向けに同様のガイドラインを制定したのは、264年後の1865年になってからだったのです。
なぜか?
カギは認知的不協和にある。
自分の発言が世間に広まりやすい有名な専門家ほど、生活も自尊心もその予測にかかっています。それまでは失敗しても、自己の正当化ばかりに躍起になって何も学ぶことができずにいることもあるのです。
認知的不協和は、経済、医療、司法ばかりか、ビジネス分野にも大いに影響しています。いかにここに実感をするのかがひとつのキーです。
進化とは、失敗と、選択の繰り返しなのです。
そして、発明(行動)は理論に先立つという事例があります。
ユニリーバの粉洗剤の製造装置開発のストーリーが非常に印象的です。粉洗剤を作る時に液体洗剤を小さな口がついているノズルで噴射して瞬間的に乾かしているのですが、このノズルが詰まりやすい・・目詰まりしづらいノズルを開発するため、同社は、まず一流の数学者チームに助けを求めました。
当時すでに大企業だったユニリーバは、世界最高の頭脳を集結させる資金に恵まれていたのです。しかし、高圧システムや流体力学などさまざまな化学分析分野のエキスパートでもあり、物質がある状態から別の状態へと変わるプロセス「相転移」にも詳しい人々でした。
このチームは複雑な計算式を数々導き出し、ミーティングや勉強会も重ねて、長期間の研究の末、ひとつの新たなデザインにたどり着きました。
しかし、残念ながら目詰まりは改善されず、生産性は向上されませんでした。
そこでユニリーバは、ほとんど破れかぶれで自社の生物学者チームに助けを求めたのです。生物学者たちは流体力学についてはほとんど何も知らない人たちです。
でも彼らには、知恵がありました。それは、「成功と失敗の関係性」を深く理解していたということです。
以下のようなステップで、進行していきました。
- スタート:目詰まりするノズル10個を複製しました。それぞれ少しずつ変更を加えていきます。
- 最初の発見:10個中1つが1~2%性能アップしました。この改良版を新しい基準にしています。
- 繰り返し:改良版から新たに10個作成しました。また実験をします。そして、また良いものを選び繰り返します。
- 結果:45世代を経験していきます。449回の失敗ののち、最終的に効率の良いノズルが完成しました。
進歩や革新は、頭の中だけで美しく組み立てられた計画から生まれるものではない。
生物の進化もそうなんですね。進化にもそもそも計画などはないのです。
生物たちはまわりの世界に適応しながら、世代を重ねて変異していきます。
失敗から学ぶということは自然の摂理なのです。
最終的に出来上がったノズルは、どんな数学者も予測し得ない形をしていたそうです。
進化や変化についてこちらの1冊「【真の「成長」とは!?】トランジション ――人生の転機を活かすために|ウィリアム・ブリッジズ」もぜひご覧ください。
まとめ
- 失敗はなぜ見直されないか?――失敗に向き合うマインドセットが持ちづらい生き物です。
- データを集め、分析する?――結果に対して客観的になってみることです。
- 進化を味方に?――失敗を重ねながら自分を変えていく力を養いましょう。