- どのような戦略を描くことがキーでしょうか。
- 実は、まず最も重要なことは、その作り方と実行の仕方に関することかも知れません。
- なぜなら、これからの時代、経営戦略は頻繁に見直しが必要な修正主義へと変わってくるからです。
- 本書は、田坂広志さんによるこれからの戦略思考を考える1冊です。
- 本書を通じて、どのようなスタンスで経営を行っていくかの視点を得ることができます。
変化の時代に抗うのではなく、変化をもって乗りこなす?
変化の激しい時代において、いかに戦略を構築するかということではなく、むしろ状況にあわせて絶えず戦略を小刻みに見直しながら、事業の継続やイノベーションを絶えず進めていくことが必要かもしれません。
そうした考え方に立つと中期経営計画の必要性、あるいはその中身についても、多くの企業が調整を求められる必要性が出てくるはずです。例えば3~5年程度の策定をしても、時間が経つにつれて、状況は変わりそれまで拠り所していた事実が揺らぐためです。
数年後には、経営戦略というものは「不断に見直しすべきもの」という認識が常識となっているでしょう。
すでに先進的と言われる企業ほど、そうした次なる常識(Next Common Sense)を身に着けているはずです。
本書は、戦略とはなにか、そしてこれからの時代に即した形で、立案し、実行していくための視点を数多く提供してくれる1冊です。
いま、世界をさまざまな変化の波が襲っています。
1つ目は、「市場の自由化」です。規制緩和につぐ規制緩和で、それまで永年に渡り産業保護されてきた分野が自由な競争原理に従って駆動するようになっています。最たるものは、金融でしょう。他の産業でもこうした規制緩和は、行われており、通信、電力、建設など多くの事例があります。
規制緩和が進めば、新規参入のプレイヤーも増えます。重厚長大で変化の少なかった時代は大きく構えていればよかったのですが、そうともいかない状況になりつつあります。平時は、他社の動向をウォッチして、対抗戦略、もしくは、追従戦略を展開していればよかったものが、全く別の発想が求められるようになります。
2つめは、「市場の情報化」です。ネット革命、デジタル革命、IT革命などと呼ばれるもので、デジタルの力によって新しいビジネスモデルが次々と市場にもたらされるようになりました。たとえば、「ネット・オークション」「や「リバース・オークション」などが最たるものでしょう。
価格という企業がある意味、一方的に決めていたものが、消費者・購買者が独自に決める方法が展開されています。
先回りの思考を忘れない?
こうした変化の中で、経営者が持つべきは、「危機感」です。危機感を持つということは、ある種の才能であり、天才性であると田坂広志さんは言います。
ビジネスにおける「天才」と呼ばれる人々は、例外なく、まさに野性的といえるほどの鋭敏な「リスク感覚」を持っているのです。
変化の時代において、こうしたリスク感覚を喪失してしまうことが、実は最大のリスクにほかなりません。
大切なのは、リスク感覚を鋭敏に養いながら、「次なる主戦場」はどこか?を見極めて、市場の道理にしたがい、組織全体を早急に動かしていくことです。
次の3つの要諦を意識しましょう。
1.市場における「主戦場」がどこに移行していくのかを見極める。
2.そこに「先回り」して、施策を展開する。
3.次第に「主戦場」に市場が移行してくるのを構える。
大切なのは、市場の大局を捉えるということです。優秀なマネージャーほど、企業の動向が気になってしまうものです。当然これまでのやり方を踏襲すれば、企業分析を行い、対抗策を検討することが定石であったのですが、これからは少しその発想を変えていく必要がありそうです。
企業の動向を予測することは必ず壁に当たります。個々の企業の洞察はまったくの予測不能だからです。一方で、市場の理であれば、おおよその方向感を見出すことが可能です。
「市場の形成」を洞察することです。
リスク感覚を持ちながら、どの方向へ市場が動いていくのかを、感じ続けることが欠かせません。
偶然性に意志をぶつけよ?
戦略を立案し、展開していく時に、何をモチベーションの源泉にするのかも、再検討が必要になりそうです。
「予測」から「意志」へ
戦略というのは、読んで字のごとく、戦いを略する(なくして)勝利する。という意味を含みます。
すなわち相手方との戦いをしてしまってはいけないという示唆が託されていることな場のです。
よって、そのためには、市場全体がどのように動いているのか、そしてどのように生まれてくるのかを予測して、それに適して自社の舵取りをしていくことがキーになります。
ここで重要になるのが、市場の大きな動きは、わかったが、そこで自社はどのような戦略方針を持つか?ということです。キーは、「意志」にあります。自社は何をもって市場や社会全体に貢献するのか?を見極めて、それを言語化し、今後の企業運営の方針にいしていくことが求められます。
外の環境を洞察し、それに対応するのではなく、外の変化に対して、自分たちがどのように舵取りを「したいのか」を明確にすることです。
市場の動向をみて、構える、そしてその姿勢を絶えず検討するというのが戦略の基本になりますが、この点で2つの論点が重要になります。
大きな流れを洞察し、どこに向かうのかの大きな舵取りと、一方で、状況に即して細かく戦略を見直していく小さな舵取りの2つを駆使する必要があります。
これを田坂広志さんは、「波乗り」の戦略思考と捉えます。そして、波乗りのためには偶然性を味方につけることが重要であるとも説きます。
すなわち、「波乗り」の戦略思考とは、「偶然性」というものを積極的に活用しようとする戦略思考なのです。
偶然性を歓迎し、意志をそこにぶつけていく、そこから、新しい戦略を生み出していく発想を持ちましょう。まさにアウフヘーベン戦略思考。
そのためには、戦略的な反射神経を養うために、絶えず、社会や自社についてビジョンを見つめ続ける行為が経営者には求められるのだと思います。
田坂広志さんの著者は毎回新しい視点をご提供してくれます。こちらの1冊「【時間は、密度である!?】なぜ、時間を生かせないのか|田坂広志」もぜひご覧下さい。
まとめ
- 変化の時代に抗うのではなく、変化をもって乗りこなす?――修正主義でいきましょう。
- 先回りの思考を忘れない?――企業観察だけではなく、市場・社会観察をしましょう。
- 偶然性に意志をぶつけよ?――そこから新しい世界観が見えてきます。