【哲学+デザイン=最高のアプローチ?】メタフィジカルデザイン つくりながら哲学する|瀬尾浩二郎

メタフィジカルデザイン つくりながら哲学する
  • 考えること、そして、アウトプットすることに関して、良い視点の持ち方はあるでしょうか。
  • 実は、何かを「つくること」と「哲学すること」は関係していることかも知れません。
  • なぜなら、いずれも「問い」を中心に思考を進めていくことだからです。
  • 本書は、哲学と創造を横断する1冊です。
  • 本書を通じて、考え、アウトプットすることについて考えるヒントを得ることができます。

哲学的であることとは?

まず、考えるために最初に設定されるのは「問い」です。問いは考えるための足がかりや道筋となります。問いを立てるということは、自分が何をどのように考えようとしているのかを考えることになります。

そして、哲学的であるとは、その問いを自ら持ち、深めていく視点と実践を行っているか、ということになります。

問いに先立つものとは、「わからないことを知る」ということです。これは、分かっていることと、わからないことの境界を触れることであると言えます。

例えば、「幸せとは、なんだろうか」という問いがあるとして、これについて「幸せ」であることとはなにか?一人ひとりの「幸せ」という概念について触れていきながら、なんとなく一人ひとりの「幸せ」は分かったとしても、改めて「幸せ」について問われても、なかなか明確な回答を導き出すことは難しくなります。

「幸せとは、なんだろうか」と問うことで、一見知っているようで、実はよくわからない部分があることについて気づき、その点について、さらに考えを深めていくきっかけを得ることができます。

私達は問いをとおして「分からないことに気づく」ことができるのです。

同時に、問いという行為は、それがすなわち「情報探索」でもあります。

本書の著者・瀬尾浩二郎さんは、哲学研究者ラニ・ワトソンさんの論文の中での一文を引用します。

問いとは、情報探索の行為である(Question is an informationg-seeking act.)

そして、問いとは必ずしも「疑問文」ではなく、さらには、「言語で表現されない」ということも指摘されています。

哲学とデザインは近接している?

哲学とデザインは、似ているところがあります。

  • あらゆるものを多少とすることができる。
  • ツールとして機能するところ。
  • 抽象的なものを扱うことができるところ。
  • 人々の「認知」を形作ることに貢献しようとするところ。

これだけの類似性がありますが、違うところも存在します。

哲学は、概念を明確化し、それがどうあるべきかを論じるのに対して、デザインは概念に形を与えて、それをどのように体験させるか(ときに人々の行動を変えていくか)、ものや仕組みを作りながら考えていくところです。

「デザイン思考」という概念が語られて久しいです。デザイン思考は、人間中心のアプローチで問題解決を図る革新的な方法論です。

この手法は、1960年代にスタンフォード大学で生まれ、現在では世界中の企業や組織で活用されています。従来のビジネス分析とは異なり、デザイン思考は共感から始まります。ユーザーの真のニーズを深く理解することで、より効果的な解決策を生み出すことができます。

デザイン思考のプロセスは主に5つの段階で構成されています。

  1. 共感(Empathize): ユーザーの行動や感情を観察し、真のニーズを理解します。
  2. 問題定義(Define): 収集した情報を基に、本質的な課題を明確にします。
  3. アイデア創出(Ideate): ブレインストーミングなどを通じて、できるだけ多くの解決策を考えます。
  4. プロトタイプ作成(Prototype): アイデアを形にして、素早く実験できる形に落とし込みます。
  5. テスト(Test): 実際にユーザーに試してもらい、フィードバックを得ます。

この一連のプロセスは、固定的なものではなく、必要に応じて各段階を行き来しながら最適な解決策を見つけていきます。失敗を恐れず、早い段階で試行錯誤することで、最終的により良い成果につながります。

デザイン思考の特徴は、「人間中心」「実験的」「反復的」という点にあり、複雑な問題に対しても柔軟に対応できる手法として、今後もさらなる発展が期待されています。

デザイン思考では、そのプロセス自体に多くの人を巻き込む力を持ちます。それはさながら、場を聞く力と表現されるようなものです。そもそもデザイン思考は、デザイナーとそれ以外の人々が共同できる場をつくるというモチベーションに支えられて発展してきた側面があるのです。

そして、デザイン思考では、「観察」や「リサーチ」を通じて課題を見つけていくのですが、物事の意味や価値そのものを検討するということは、デザイン思考のプロセスの中では、はっきりと明文化されていません。

その明文化されていない部分こそ、デザインにおいて哲学することが求められている領域なのでしょう。

つまり、哲学的思考に立ち、ものごとを考えるための「問い」を共有しながら、互いに問題を発見し、それを解決するプロセスへと進んでいくという可能性を見出すことができます。

さらには、デザインされた状態から「問い」に戻っていくことで、一連の活動をもう一度見直すしながら、さらにアップデートして行くスパイラルを描くことができます。

哲学+デザインの可能性とは?

哲学的なアプローチと、デザイン思考の相互補完のニュアンスが確認できたところで、アイディエーションについても触れてみましょう。

哲学的思考とアイデアを生み出すことを比較してみましょう。まず、アイデアを考えるとはものごと同士の中に類似点を見出すことです。

私は物事の差異よりも、類似点を見つけるのに長けているから。

これは、著者が引用したオーストラリア出身のシンガーソングライターであるネイ・パームさんが、ある楽曲のアイデアを発想した背景についての発言です。

アイデアを発想しようとするとき非言語的な直感を持って、類似点を見つけようとすることが多いのではないでしょうか。

例えば、マジックテープの開発は、スイスの技術者ジョルジュ・ド・メストラルさんが、犬の散歩中に服についたゴボウの実から着想したといいますし、あるいは、DNAのらせん構造の発見は、はじめかららせん階段のようなものをイメージされていたといい、日常的なものと形状の類似性から、分子構造を見る目を養っていったということができるでしょう。

一方で、哲学とは基本的に言語を駆使して考えていく行為であり、その発想はものごとの差異を見つけ概念を明確化し、なにがしかの理論をそこに見出すものとして機能します。非言語領域かつ、類似点を見つけるアイデア発想とは一線を画します。

一見異なる2つの考え方ですが、組み合わせることでよりよいプロジェクトを生み出すヒントを得ることができるかも知れません。

なぜなら、ときによいアイデアは、そもそもの課題やテーマとなる概念を捉え直し、再定義することが多いためです。

はじめから前提を疑ったり、概念を再定義することに意識的な哲学的態度でアイデア発想に挑んでみることを考えてみましょう。

哲学的に考えることで前提を疑い、概念を再定義することはアイデア発想において組み合わせるべき要素を増やして、ものごとの関連性を見出すきっかけとなるはずです。

よい問いは人々の共感を呼び、考えてみたいという気持ちを起こさせます。よいアイデアが人々の想像力を喚起し、さらなるアイデアを呼び起こすことに近い現象です。

ものごとをつくり出していくアプローチに、哲学的な思索を加えてみることで、ものごと自体を捉えるフレームを再定義することから始めることができて、よりよい状態や世界観をつくり出していくための出発点を共有できるかも知れません。

哲学することと、つくることは、そもそも同じレベルで比較する対象ではないのかもしれません。

哲学することについては、こちらの1冊「【哲学は自分を開くこと?】哲学はこう使う 問題解決に効く哲学思考「超」入門|堀越耀介」、そしてデザイン思考については、こちらの1冊「【アイデアを生み出す思考自体を再発明せよ?】「デザイン思考」を超えるデザイン思考|濱口秀司」もぜひご覧下さい。どのようなプロセスを通じて、人々と共に実践をともにするのか、私も考え続けてみたいと思いました。

まとめ

  • 哲学的であることとは?――問いを持ち、ものごとのそもそもに迫る行為です。
  • 哲学とデザインは近接している?――相互補完的に機能する考え方かもしれません。
  • 哲学+デザインの可能性とは?――ものごとをささえる前提からデザインしていくアプローチです。
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