- どうしたら限られたリソース(時間や意識)を有効活用できるでしょうか。
- 実は、徹底的に減らすことが大切かも知れません。(結果的に、足すと減らすのバランス)
- なぜなら、人は、もともと「足すこと」をベースに思考してしまうからです。
- 本書は、足し算へ向かう人の性(さが)と引き算の重要性を説く1冊です。
- 本書を通じて、シンプルに要素を減らして考えることの大切さをもう一度理解できます。
人間のクセとは?
何かを実施したり、決意するとき、「こういうことはなるべくやらないようにしよう!」と思うよりも、「こういうことをもっとたくさんやらないとな!」と思うことはありませんか?
実は、後者のほうが人は考えるほうが得意なのです。
「ない」という概念よりも、「ある」概念のほうが脳が取り上げやすいことが一因としてあげられます。
さらに、哺乳類や鳥類など多くの動物で観察されるような「備蓄行動」という特性も私たちの本能を介して、何かを加えていることに安心感を覚えさせます。
この人間の食料獲得本能が、ほかのものの足し算にも拡張されているかも知れない。
大切なのは、「なくてもいいこと」を検討するほうが効果的であるにも関わらず、自分の思考のクセに従って「なにかをプラスする」方向でものごとを捉えたり、解決策を検討、選択することをしてしまいがちという認識です。
一人の世界でも、追加の思想がベースなので、社会や集団においては、当然のように追加の発想が優先されます。
制度においても引き算はおろそかにされている。政府内でも家庭内でも、求められることは増えていくのがデフォルトだ。
本書は、「レス」の可能性と優位性を考えて、何かをプラスするのと同じように平等に検討できるようにするために、考え方やファクトを提示してくれる1冊です。
直感は誰にでもある?
実際に、算数を知らない子どもに、次のような問いかけをしてみます。
Aさんは、14個のキャンディを持っています。
そしてさらに19個をもらいます。
Bさんは、34個のキャンディを持っています。
より多く持っているのは誰でしょう?
ここで、Bさんと応えるためには、算術を知っている(Aさん=14+19で、33個を持っている)必要があります。
そして、実験の結果ですが、こうした僅差の場合、どちらが多くのキャンディを持っているかを子どもが正しく答えられる確立は、たまたま当たる確率と大差ありませんでした。
つまり子どもは、直感を重視し、数学を学ぶ前から、量を知覚しているということになります。
そして、この量の知覚というのは、実際の正確な量ではなく、相対的な量の変化に大きく左右されるのです。
キャンディ8個と9個の差よりも、キャンディ1個と2個の差のほうがインパクトをもって捉えてしまいます。
例えば、飢餓に苦しんでいる祖先の立場に立ってみたら、マンモスの群れが目の前に存在した時に8頭と9頭よりも、1頭 or 2頭のほうが、インパクトを強く覚えるのは想像にたやすいです。
量が大きければ大きいほど、量の変化に感じる差は小さくなる。
このように、人は直感的に数量を判断し、無意識のうちに、足し算と引き算を採用する選択眼に歪みを持っているということになります。
レス・イズ・モアを目指すために?
古代から、人間の文化は、おおむね「モア」(足し算)で定義されてきました。より多く、より早く、よりたくさんなにかものごとを行っていくためには、どうしたらいいのかを絶えず考えてきました。
先入観としてそうした文化的な背景も大きく人間の判断を左右する要因となるでしょう。
足し算から生まれた文化は、足し算を続ける。
足し算が文明を築いていく一方で、「モア」に懐疑的だったり、背を向けたりする人もたくさん残ってはいました。そうした戒めは、宗教などの戒律や、思想に残っていたりもします。
禅のマインドなどもそうした「レス」の発想の一つであると思われます。
ほどほどのところでやめておけば、無駄な努力をせずに済む。しかし気をつけないと、その同じ傾向のせいで、努力してでも引き算したほうがいいときに、肝心の引き算ができなくなってしまう。
初心者用の自転車について考えてみることによって、「モア」と「レス」の考え方とアウトプットの違いを感じることができます。
補助輪が取り付けられた自転車を簡素化して、補助輪を取り外しながら練習することもできるでしょう。一方で、ストライダーという足で蹴って進む専用の小さな自転車であれば、それ自体を自然と乗りこなすことで、自転車の練習にもなるという自転車初心者をより効果的にさサポートできるものになるはずです。
この事例をもとに、2つの「レス」を私たちは知ることができます。
ひとつは、補助輪の装備した自転車から、補助輪を取りながら練習するという「レス」・・・これを本書の中では、「怠惰なレス(おそらく英語で、Lazy Less)」と呼びます。
さらに、もうひとつのストライダーのような発明を「満足化以降のレス」と呼びます。
私たちは、補助輪を足すという行為を通じて、嗜好段階において最初は「モア」の発想をもとに「満足化」を図っていきます。そして一定の段階で「満足化」が最大限に達したタイミングにおいて、そこで満足してしまうのではなく、引き算の思想を手に入れ、ストライダーのようなイノベーティブな発想を誘発していくことが良いかも知れないということに気づくことがキーになります。
格段の努力をすればほどほどの満足の先の「レス」に行き着けるのは確かだが、引き算ができずにいるかぎり、その格段の努力がほどほどの満足の先の「モア」を呼び込んでしまうのである。
怠惰なレスは、チャレンジではなく、変化が少ないものです。「レス」という可能性の先に、もっと大きなインパクトがもたらされるようなイノベーションのタネが隠れているかも知れません。
「レス」なアクションを検討できるステップを、次の4点で示します。
1.「反転」・・まずは「モア」の前に「レス」を試してみることです。
2.「拡張」・・足し算と引き算の両方を考えるようにしてみましょう。
3.「抽出」・・人間の根源にフォーカスしてみましょう。不要なものを取り去り、ときめきを残しましょう。
4.「持続」・・引き算を続けてみましょう。
まず、何かを検討する場合、何を新たにするか?ということと同じくらい、「なにをやめてみるか?」という発想も持っておくことが大切なのです。
ちなみに、減らすことを大切にする禅マインドはこちらの1冊「【捨てれば幸せに近づける!?】捨てる幸せ―――シンプルに、ラクに生きる「禅の教え」|藤原東演」もぜひご覧下さい。
まとめ
- 人間のクセとは?――足し算をどうしても優先してしまいます。
- 直感は誰にでもある?――直感は生存に必要なシステムですが、ものごとを歪めることもあります。
- レス・イズ・モアを目指すために?――4つのステップで性(さが)を超えましょう。