- PRは、新しいあたりまえを作ることです。
- 実は、すでにある点と点を結んでいく行為が、新しいあたりまえを作ります。
- なぜなら、新しいあたりまえのきざしというのは、すでに世の中にあります。
- 本書は、博報堂ケトル・嶋浩一郎さんによるPRとは何かを説く1冊です。
- 本書を通じて、PRの心構えと方法を知ります。
点と点を結ぶとできること?
本書が作り出すことを目指しているのは、「新しいあたりまえ」です。今までなかった概念が社会に浸透し、普及して、定着していくことを促します。PRという言葉があまりに浸透しているので、見立てを変えるのは難しいですが、まず、PRはプロモーションではないということを知りましょう。
PRパーソンはステークホルダーとの間に合意点、つまり握られることを探り、対話を通じて新しい「あたりまえ」を定着させていくのです。
社会は多くの人で構成されています。そして、さまざまな役割があります。一つの企業や、ブランド、あるいは活動体が社会の中で存在できるのは、社会を構成する人に認められるからです。
認められやすくするためには、やはり知っていただくことが重要です。そして、その存在意義を明示できるかがとても大切な取り組みになります。
社会の新しいあたりまえを積極的に作ることで、社会で存在し続けやすくなるための土台を作ることができます。
なぜなら、「新しいあたりまえ」とは、本当に新しいのではなく、すでに社会の中にあることで構成されるからです。それは人の不満や不安、意志のような言葉で語られ始めているなにかです。
例えば、コロナ禍前後での働き方を考えるととても理解が進みます。
コロナ禍前から徐々に働き方についてはさまざまな議論が行われていました。
- もっと無駄な仕事を排除して、本当に価値ある仕事に集中したほうがいいのではないか。
- 2拠点などの新しい働き方も可能性があるのではないか。
- オンライン会議を駆使すれば、もっと自由な時間を確保することができるのではないか。
- 徹夜自慢、病気自慢をしてはたらいているのって、なんだかおかしくないか・
などです。
こうしたモヤモヤとした社会の言葉が、コロナという非常事態に刺激を受けて、「在宅勤務」をあたりまえにさせました。
「違い」ではなく、「同じ」も大事?
コロナほどショッキングな出来事でないにせよ、PRにはそうしたモヤモヤとして出現しつつある点をむすび、社会に「新しいあたりまえ」を作り出すきっかけを提供する力があります。
モヤモヤの中から、新しい「あたりまえ」を表す言葉が生まれ、それが人々の認識や行動を変えていき、新しい星座になるのです。
あたりまえの誕生や普及に大きな役割を果たすのが、メディアです。メディアという自らの言葉を通じて、社会に対して広く知らしめる役割を持ったステークホルダーとともに活動できるかが大切です。
パブリック・リレーションズとは、新しい「あたりまえ」を世の中に定着させるために、あらゆるステークホルダーと関係を築き継続的に対話し「合意形成」をする仕事だと思うに至りました。
対話関係がキーワードです。対話には、「自己の目指す方向と誠意を伝えること」「あらゆるコミュニケーションを考えること」「それらを継続的に更新し続けていくこと」が、含まれています。
それでもステークホルダーの人とは役割や立場が異なるので、もしかすると合意形成が難しい側面も出てくるかも知れません。でも対話をし続けていくためには、同じ普遍的な立脚点までおりて、考え方を磨いておくことです。これがパーパスと呼ばれる存在意義につながります。
パーパスは、社会でなぜ当社や当事業、あるいは組織が存続し続けるのかを考えるものです。
パーパスを持っておけば、社会的な役割を規定できるため、社会を構成する人々、すなわちステークホルダーと対話の糸口を見つけて、対立しがちな瞬間にも両立思考を忘れないための変える場所を得ることができます。
アウフヘーベン?
ブランドという言葉があります。いろんな定義がありますが、嶋浩一郎さんは次のように語ります。
ブランドは顧客に愛されることでブランドになります。
さまざまなステークホルダーとブランドの概念を共有することが大切です。共通認識のためのパーパスを定め、積極的に交流し、そして、ブランドを実体化するためのアイデアを募りましょう。
実はPRというのは、共通点を見出すプロセスでもあります。
違いを見つけるとほめられる「広告」、同じを見つけるとほめられる「PR」
すなわち、PRとは共通の目的や利益を以下に見える化できるかということに関わってきます。でも、多くの企業やブランドにとってこうしたアプローチはとても大切になってきているかも知れません。
なぜなら、製品や技術での差別点というは、とても大切なものにほかなりませんが、同じように、それを届ける人ややり取りなど活動にブランドの魂は宿るからです。
製品やサービスを届けながらも、必ずそこには人と人のふれあいがあるはずです。そうしたやり取りをいかに行っていくかが、PR活動であり、そして社会の中で永続する会社を目指すうえでのヒントになるのではないかと思います。
時に対立するような立場の人とも、対話をしていくことをPRでは目指します。
エアービーアンドビーが日本で認められるようになったのは、次のような関係者の認識がや活動が統合されたからです。
- 既存の宿泊施設では提供されないような特別な宿泊体験をしたいと思っている生活者。
- 関係人口を増やしたいと考えている地方自治体。
- 空き家問題を解決したい地域。
- 空き家という遊休資産を保有する人や企業。
これらの点と点を結んでいく時に、民泊という新しいあたりまえの存在が見えてきました。しかし、日本の法律上住宅を宿泊施設として第三者に貸出をすることは、ハードルがありました。
最終的には、点と点が面になり、新しいあたりまえの動きが広がる中で、政治との対話も広がり、通称「民泊新法」と言われる「住宅宿泊事業法」の制定されていくに至りました。
それぞれのありたい姿やあるべき姿を押し付け合っていては、こうした状況は作れなかったかも知れません。大切なのは、お互いのニーズや解釈をぶつけてみて、思いもよらなかった世界観を作り出せるという可能性を信じられるかどうかです。
これまでに過度に固執するのではなく、互いにOPENになって、互いの考えていることや思いを中心に対話を進めていくことが、これからの時代を拓くPRの心構えとなっていくのだと思います。
時代は「社会のなかの私」を語る時代に変化していっていることを実感します。
嶋浩一郎さんは、ステークホルダーとの利害調整で、単に最小公倍数のようなみんなが合点できる小さな共通認識を作ることではなく、むしろ対話によってより新しい世界観や社会を見出していくことの可能性を説きます。アウフヘーベンという言葉を使って。
アウフヘーベンについては、こちらの1冊「【アウフヘーベンしようぜ?】直線は最短か?~当たり前を疑い創造的に答えを見つける実践弁証法入門~|阪原淳」もぜひご覧ください。
まとめ
- 点と点を結ぶとできること?――新しいあたりまえを見出すと対話の可能性が広がります。
- 「違い」ではなく、「同じ」も大事?――PRは、「同じ」を見つけるプロセスです。
- アウフヘーベン?――対話を通じて、互いがそれまで知らない自分になれる可能性にかけてみましょう。