- 両利きの経営のためには、どんな行動がキーになるでしょうか。
- 実は、社内の人材活用がポイントになるかも。
- なぜなら、会社の事情をよく知った人材が、外部とつながることにより、イノベーティブな取り組みが生み出されていくからです。
- 本書は、新規事業の探索のための行動指針をまとめた1冊です。
- 本書を通じて、両利きの経営のための実践のヒントを得ることができるでしょう。
コーポレート・エクスプローラーとは?
本書が取り扱うのは「コーポレート・エクスプローラー」という人材です。成熟した企業の内側からイノベーションを起こそうとする次世代型のリーダーのことを指しています。本書は、コーポレート・エクスプローラーが自社の資産を活用して、破壊的な新規事業を迅速的に立ち上げて成功させるためのポイントをまとめています。
本書の対象は、スタートアップ企業ではなく、成熟企業です。業界を牽引するような大きな会社がいかにイノベーションを起こす体質を持てるかについて書かれた「両利きの経営」の実践本という位置づけで読むことができます。
新規事業やイノベーションで、成功した大企業の共通点は、「スタートアップにはない自社の利点を認識していること」にあります。実は大企業には、活用できるリソースや組織能力、資金力、スキルを持つ人材、生産力、顧客などの多くの資源があります。これらの資源を当たり前として捉えて、活用の視点を見出さないのではなく、積極的に捉え直し、活用してみることが大切です。
資金だけなら引けを取らないスタートアップもあるものの、それ以外の資産では大企業のほうが大幅に有利だ。
これらのリソースを再定義して、再結合する取り組みを行うにふさわしいのは、社内の人材です。どこにどんなリソースがあるのかを十分に理解して、それらを活用する権限とモチベーションを持ちます。
創造的破壊を起こす企業には、上記のような「コーポレート・エクスプローラー」を中心に4つの特徴をあわせもちます。
1)経営陣が創造的破壊の機会や脅威に負けないほど壮大な「戦略的抱負」を持っていて、行動を変える必要性も理解していること。
2)グローバルなイノベーション業界が体系化した「イノベーションの原則」を事業推進に取り入れていること。
3)革新的な新規事業をコア事業から分離する「両利きの組織」が見られ、新規事業は成長に欠かせない裁量権を守りながら、コア事業の資産も活用できること。
4)「コーポレート・エクスプローラー」だけでなく、リソースを投じて新規事業を後押しする覚悟のある経営陣の間にも「変革的リーダーシップ」があること。
破壊的な新規事業を起こすことができる企業は、上記の4点をどこまで実体化できるかにかかっています。
パーパスのすり合わせが不可欠?
CE(コーポレート・エクスプローラー)が新規事業に取り組み続けるには、本人のパーパスが不可欠だ。
コーポレート・エクスプローラーは、パーパスによって、駆動します。これは、起業家にも共通する要素で、コーポレート・エクスプローラーが活動していくためには不可欠なものです。コーポレート・エクスプローラーには、「スタートアップではなく、なぜ社内で新規事業を進めるのか?」と問われることが多くなりますが、パーパスはその答えにもなります。
もちろん個人の起業家よりも企業の中で事業を推進するほうが、「量産化」がうまくいく明確なメリットがありますが、そのメリットを享受するためにも、個人としてのパーパスそして、組織としてのパーパスの絶え間ないすり合わせが必要になります。そうでなくては、活動モチベーションの置きどころのバランスが崩れて、活動が持続可能なものにならないためです。
そうしたパーパスの背景には、やはり大企業ならではのリソースとそれを保有する社会的責務という視点も欠かせないように思います。
資源が集中しているからこそ、社会に対して責任を持っているというスタンスからものごとを見ていくと、挑戦や貢献の必要性を見出すことがしやすくなりそうです。
ちなみにパーパスを検討するためには、こちらの1冊「【人を活かす経営とは!?】パーパス・マネジメント ―― 社員の幸せを大切にする経営|丹羽真理」もおすすめです。ぜひご覧ください。
個人のパーパスを見つけていくためには、こんな1冊「【頭がいいは、視点で決まる!?】メタ思考~「頭のいい人」の思考法を身につける|澤円」をご覧いただいても良いかもです。
活動のみが企業を創り出す?
イノベーション、テック自体は良くても、自社の戦略と整合性が取れていない取り組みであっては、途中で頓挫してしまう可能性があります。大切なことは、自社の方針に合わせた新規事業の説明ができるかということをトップマネジメントも、コーポレート・エクスプローラーも認識することです。
全体戦略の方針の上で、以下の項目をチェックした上で、取り組みの内容を精査していきましょう。
- 顧客を惹きつける課題か?
- 社会全体の潮流を反映しているか?
- 自社の資産を活用できるか、もしくは優位性を強化するか?
- 市場に魅力度はあるか?
また、こうした論点に加えて、コーポレート・エクスプローラーが、業務を進めていく上で、評価のあり方も検討して置く必要があります。ここでは、フィードバックとフィードフォワードという考え方が参考になります。
それぞれの特徴を以下で振り返っておきましょう。
- 【タイミング】フィードバック:出力が生成された後に動作
- 【タイミング】フィードフォワード:入力が処理される前に動作
- 【情報の使用】フィードバック:実際の出力と目標値の差を使用
- 【情報の使用】フィードフォワード:予測や事前の知識を使用
- 【エラー処理】フィードバック:エラーが発生した後に修正
- 【エラー処理】フィードフォワード:エラーが発生する前に予防を試みる
- 【適応性】フィードバック:システムの変化に適応可能
- 【適応性】フィードフォワード:事前に設定されたモデルに依存
- 【安定性】フィードバック:発振や不安定化の可能性あり
- 【安定性】フィードフォワード:一般的により安定
実は、コーポレート・エクスプローラーの評価にあたっては、業績の先行指標であるフィードフォワード指標が欠かせません。フィードフォワード指標とは以下のようなものです。
- 実験に参加する意志のある顧客数
- 顧客の商品利用率
- ユーザーエンゲージメント
- 進んで体験談を共有する顧客数
フィードフォワード指標の中には、粗利益やユーザーあたりの平均売上額(ARPU)や年平均成長率(CAGR)のような絶対的な指標は少ないものです。この点に、既存事業でマネジメントをされていた方は最初戸惑ってしまうでしょう。
しかし、新規事業の探索においては、事前に明確な指標が得られることはなく、事業の進捗にあわせてKPIの設定軸足をシフトしていくことが求められます。そうでなくては、事業自体の可能性について誤った判断をしてしまうことも考えられるからです。
CE(コーポレート・エクスプローラー)は、あくまで事業の土台となる仮説をどこまで検証できたかで評価される。
フィードフォワード方式は、コーポレート・エクスプローラーに説明責任を持たせることに役立ちます。
両利きの経営を実践していくためには、コーポレート・エクスプローラーのような人材を登用し、その人の役割を活かすような「枠組み」を構築していくことが不可欠です。その意義・意味をトップマネジメントがより良く意識をして、具体的な取り組みを検討できるかを検討しましょう。
パーパスやMVVを策定するだけでは、戦略の実行力は高まりません。トップマネジメントが意識的に組織の行動の文脈を変えていくことが重要です。大きな方向性とセットで、探索の「枠組み」を備え、人を活かす経営こそが、両利きの経営を実体化することになります。
外部資源の捉え方については、こちらの1冊「【プロ顧客を目指せ!?】新手法 ベンチャークライアント|木村将之,グレゴール・ギミー」も刺激的です。ぜひご覧下さい。
まとめ
- コーポレート・エクスプローラーとは?――社内資源をよく理解し、イノベーションを先導します。
- パーパスのすり合わせが不可欠?――組織と個人のパーパスのすり合わせが、持続可能性を担保します。
- 活動のみが企業を創り出す?――大方針だけではなく、企業の実態を作るのは活動のみであることを忘れなようにしましょう。