- どうしたら、よりよい組織やチームを作り、互いに協調的の中で仕事を育めるでしょうか。
- 実は、対話にキーがあるかも知れません。
- なぜなら、そもそも組織とは関係性のことだからです。
- 本書は、他者と働くための対話について考える1冊です。
- 本書を通じて、他者と協力することの意義意味、そして方法を知るでしょう。

対話の可能性とは?
本書は、経営学者・宇田川元一さんによる単著です。宇田川元一さんがこれまでの研究や実践、生い立ちの中で、見出した他者とともにあることについて対話を主軸に語られます。
対話とは、一言で言うと「新しい関係性を構築すること」です。
対話は、適応課題を解決するための手段として、本書の中で認識されます。時に組織は、さまざなギャップに直面し、それを課題として認識します。これを、ハーバード・ケネディスクール上級講師のロナルド・A・ハイフェッツさんらは、4つの適応課題として説明しました。
1.ギャップ型・・大切にしている「価値観」と実際の「行動」にギャップが生じてしまっている状況です。
2.対立型・・互いの「コミットメント」が対立するケースです。
3.抑圧型・・「言いにくいことを言わない」ケーです。
4.回避型・・痛みや恐れを伴う本質的な課題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替えたりするケースです。
こうした適応課題は、日常で触れる組織の問題として浮上したりします。こうした問題の原因は根深いため、目の前で起きている問題をすぐに解決しようとしてしまわずに、一度立ち止まって考える必要があります。そうしたアプローチに、対話が効いてきます。
1992年に上場して以来、スターバックスは15年間で、約100倍という目覚ましい企業成長を遂げてきました。しかし、上場によって株主価値の最大化が求められる中で、顧客がスターバックスを利用することで得られる「スターバックス・エクスペリエンス」の低下が起きていました。
エスプレッソを効率的に淹れるために導入したマシンは、背が高く、顧客かバリスタの顔を隠したし、コーヒー豆をその場で挽くのではなく、引いた豆を袋詰にして店舗で開封する方式は、コーヒーの香りを変えました。
あまりに、効率性を重視するために、徐々に顧客が利益のための道具として捉えられてしまう自体を招いてしまいました。これは人と人の対話ではなく、顧客をもの(“あなた”ではなく“それ”)として見てしまう状況であると言うことができるでしょう。
創業者であるハワード・シュルツさんは、この状況に直面して一度立ち止まり、会社の方針を見極めました。何よりもまずは、自分も含めた経営陣が株主価値の向上のために、短期的な経営施策に走ってしまっていたことに目を向けて、自信もそうした問題を創り出すことに加担してしまっていた一員であったということを受け入れることから、問題に取り組んでいくことを始めました。
スターバックスが大切にするべきであった、顧客もそこで働く従業員も、集う人々が独特な空間で得られる特別な経験を再度認識して、顧客との対話をもう一度重視すべく方針転換を図りました。「私とそれ」ではなく、「私とあなた」という関係性へと少しずつ近づけていったのです。
気づけば、適応課題というのは、組織の中で大きくなっている可能性があります。スターバックスの場合は、売上が伸び悩んだ際に技術的に解決しようとした「回避型」であり、古くからの現場マネージャーは、違和感を覚えながらも言い出せない「抑圧型」であり、もしかしたら、カスタマー・エクスペリエンスが大事だという価値観を持ちながらも成長を優先し続けた「ギャップ型」であるとも言えそうです。このように、組織の適応課題というのは、複雑化して、気づいた時には大きくなり、目の前に立ちはだかります。
ナラティヴ・アプローチにキー?
私たちは、知らず知らずのうちに「私とあなた」という関係性ではなく、「私とそれ」という関係性をチームや組織の中で、築いてしまっているということがよくあります。無理にそうした状況を変えることは不要ですが、しかし、そうした状態によって、なにか問題を生じさせているときには、対処が必要になります。
まずは、現状を上述のような適応課題の種類に応じて、分析し、明確に定義することで、次のアクションを取りやすくするアプローチを大切にしましょう。
現状認識の上、大切なのは、相手を変えない。ということです。
相手を変えるのではなく、こちら側が少し変わる必要があります。そうでないと、そもそも背後にある問題に気がつけず、新しい関係性を構築できないからです。
この変化は、「ナラティヴ」で明快に説明することができます。
「ナラティヴ(narrative)とは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のことです。
私たちが、知らず知らずに身に着けている、社会や世の中の認識を可能にする「暗黙的な解釈の枠組み」に気づき、これを変えることができれば、他者と新しい関係性を見出すためのはじめの1歩を踏み出すことが可能になります。

「私とあなた」の関係性を大切に?
自分のナラティヴに働きかける行為は、「どう相手に話をするか」ということよりも、むしろ、「どう相手を捉える私の物語を対話に向けていくか」を主軸にしたものになります。課題に直面したときでも、実は自分の側から、ナラティヴを積極的に検証することで、いろいろな道を切り拓くためのチャンス=着眼点や視野を獲得することができます。
ナラティヴに作用するアプローチは、以下のステップを参考にしてみましょう。
1.準備:「溝に気づく」 相手と自分のナラティヴに溝(適応課題)があることに気づく。
2.観察:「溝の向こう側を眺める」 相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティヴを探る。
3.解釈:「溝を渡り橋を設計する」 溝を飛び越えて、橋がかけられそうな場所やかけ方を探る。
4.介入:「溝に橋を架ける」 実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築く。
まず、大切なのは、問題を認識して焦るのではなく、じっくりと相手や相手の周囲を観察してみることです。
- 相手にはどんなプレッシャーがかかっているのか?
- 相手にはどんな責任があるのか?
- 相手にはどんな仕事上の関心があるのか?
などなど、自分を優先するのではなく、相手の状況を正しく感じて、認識することから始めてみましょう。ひとまず自分のナラティヴを脇において、準備をした上で、他者がどのような状況にあるのかを見てみるのです。
中立な人間は原理的に考えてもこの世界には存在しません。誰もがそれぞれのナラティヴを生きているという意味で偏った存在であり、それは自分もそうだということです。
どんな人でもフラットに状況を判別したり、そもそも感じることはできないということです。ある側面からの仮説であるということを前提に、問題、課題、他者との時間を共有してみることを進めてみましょう。
新たな現実を作ることが最高の批判である。
なにか問題が発生した時に、その問題を批判して、指摘しているばかりではなく、果敢にその問題に挑戦していく姿勢も大切です。ものごとを好転させるのは、そうした状況を具体的に解決するというアプローチにほかなりません。他者は他者のナラティヴの中において、合理的な判断をしているのです。そうした合理性を尊重しながらも、その背景に思いを馳せてみながら、対話の素地を見つけて、互いに共通の土台に経つことができる場所を見つけていきましょう。
橋を架ける実践とは、こちらだけの正論ではなく、両者にとっての正論を作っていく作業だと言えます。
宇田川元一さんの著書において、対話の可能性については、こちらの1冊「【対話こそが変革を生む!?】企業変革のジレンマ「構造的無能化」はなぜ起きるのか|宇田川元一」もぜひご覧ください。おすすめです。

まとめ
- 対話の可能性とは?――自分が変わるためのきっかけを提供してくれます。
- ナラティヴ・アプローチにキー?――相手を変えるでのでなく、自分の文脈と向き合うことが大切です。
- 「私とあなた」の関係性を大切に?――両社の文脈をすり合わせる活動を創り上げていきましょう。
