- なぜ、誰によってもメリットのある提案が棄却されるのでしょうか。
- 実は、採用しやすさという観点で、提案の中身と同じくらい別のケアが必要なのです。
- なぜなら、人は新しいものを採用する時に4つのハードルを超えなくてはならないのです。
- 本書は、提案を磨くことと同じように提案しやすさの重要性を知る1冊です。
- 本書を通じて、4つのハードルの超え方を知ります。
もう一つの大切な視点とは?
本書は興味深いメタファーから始まります。それは、ものが飛ぶということです。弾丸、飛行機、ピッチャーが投げる速球です。それら物体が飛ぶときには相反する2つの力が働きます。物体を前に押し出す推進力(火薬、ジェットエンジン、投手の腕など)と前進するのを押し留めようとする束縛力(重力や風の抵抗)です。
なぜ、弾丸は勢いよく銃身から飛び出すことができるのでしょうか!?もちろん火薬が炸裂して、弾をまえに押し出す力が効果的に働いていることもあるのですが、忘れられがちなのが、抗力をいかに削減するかという工夫の部分です。
弾を流線型にしながら、抗力が働かないようにしていますし、抗力を受け流すように銃身や銃身を支える持ち手がデザインされています。これらの多くの工夫により、抗力が小さくなるように最適化されているのです。
弾丸を飛ばす際の最大の生涯は抗力だ。なぜなら、物体の動きが早くなればなるほど抗力も大きくなるからだ。
同じように、人に新しいアイデアを受け取ってもらうためには、推進力だけではなく、抗力についても考える必要があるということです。ですが、往々にして、アイデアをつくる人は、アイデアの質を磨くことに精一杯です。より良いアイデアを作りさえすれば、導入や採用が決まるとさえ思ってしまいます。
その思い込みとは「魅力の法則」と呼ばれるもので、人々を説得して新しいアイデアを受け入れてもらうためには、アイデアそのものの魅力を高めるのがいちばんの(そしておそらく唯一の)方法だという信念である。
でもそれと同じように重要なのは、抗力を下げるということ、つまり、導入や採用のしやすさについても綿密に考えていくこと言うことです。抵抗はイノベーションの妨げになります。そして、考慮されることはめったにないのですが、変化を起こすには、この抵抗を克服することが不可欠なのです。
ある企業の事例を紹介してくれています。とある格安のオーダーメイドソファの会社の物語です。この会社は、なんと75%も安くソファを作れるのです。ターゲットは若いミレニアル世代(1981~1996年に生まれた人)で、当社のソファのオーダーメイドサービスは、彼らに非常に魅力的に映りました。多くの人が好みのデザインを検討しに、店舗に訪れましたが、しかし、売上は思うように伸びませんでした。
なぜ買い物客の多くは何時間もかけて作った家具を購入しないのだろうか。
購入の邪魔をしていた抵抗がありました。それは、すでに自宅にあるソファだったのです・・・!そのソファの処分について困っていたので、地域の“粗大ごみの日”が来てからでなければ、当社のソファを注文することができなかったというわけです。
この問題を解決するには、商品に磨きをかけることではありません。サービスの側面をより強化することです。当社が行ったのは、抗力を最小限にするように、「買い物客の家にあるソファを引き取り、困っている家族に寄付する」というアイデアでした。
抵抗を減らすこのシンプルな戦略(そして、社会的な存在意義も伝えることができる)の結果、当社の成約率は大幅に上昇したのです。
ものごとを推進させない原因を追求してみることです。そして、その中からもっとも抵抗が大きいものに対して、手を打っていくアプローチによって、効果的な施策を展開することが可能になります。
4つの抵抗とは?
抵抗には、4つあります。
1.惰性
2.労力
3.感情
4.心理的反発
これら4つを知ることで、既存のプロジェクトにおいて、どのような抗力が働いているのかを見つけるヒントにしましょう。
惰性とは、自分の知っていることに限りはあるのに、それに固執しようとする強い欲求です。人の行動を変えるようにするときには、必ず複数の選択肢を与えることが効果的だと言われています。
論点:そのアイデアが意味するのは、現状の劇的な破壊家、それともほんの少しの調整か?
労力とは、変化を起こすために必要なエネルギーのことです。上述のソファの会社の事例では、なぜ顧客は「発注」ボタンを押さなかったのか、ポイントは、発注ボタンの押しやすさではなく、その背景にあるライフスタイルにありました。
論点:そのアイデアを実行に移すのはどのくらい困難か?
感情とは、その名の通り「感情面の抵抗」のことです。起こそうとしている変化そのものが引き起こす思いがけない否定的な感情のことです。提案自体はパーフェクトで理性的には◎であっても、なぜか感情的な引っ掛かりをおぼえるとき、人は素直に採用をすることができません。
論点:人々はそのアイデアに脅威を感じているか?
心理的反発とは、変化させられまいとする衝動です。
論点:人々は変化を迫られていると感じているか?
「抵抗」は、その威力と影響力にもかかわらず、発見しにくいものであるため見過ごされやすい。
これらの抵抗は、発見しにくいものです。だからこそ、見過ごされて、「いい提案をしたのに、相手は何も分かっていない!なんて、わからない奴らなんだ!」と思考をストップさせる原因になっているかも知れません。一つ一つの抵抗の解像度を上げながら、実際の現場で抵抗を探してみることで、これに対応しやすい視点を獲得することができます。
抵抗はどこにある?
アメリカでは、車が生活に欠かせません。つまり、車は嗜好品でありながらも、必需品という度合いが日本よりも強い印象を受けます。人は車を必要に迫られて購入するシーンも多いのです。
車のディーラーはこうした心理に漬け込みます。いろいろなアドバイスをしながら、より高い車を、より顧客にとって悪い条件で売りつけようと、ありとあらゆるコミュニケーションを取ります。
でも、そうしたディーラーの心理や行動をアメリカの消費者もよく理解しています。だから、車を選択して購入するということ、そのプロセスをひどく嫌っています。車を購入する時に人々がおぼえる不信感は、大きな「感情面の抵抗」です。ディーラーはこの抵抗を軽視しているだけでなく、販売施策をしつこく展開していくという文化が、これを増大させています。
こうした環境の中において、非常に販売実績を残しているアリ・リダという販売員があります。自動車セールスは1人あたり月10台が業界平均ですが、月になんと132台も販売します。これは瞬間風速ではありません。何ヶ月も連続して、このような数字を生み出しています。
なぜこんなことができるのでしょうか?アリ・リダは、車を売るという推進力を全くケアしません。むしろ、そうではなく「感情面の抵抗」を小さくすることに注力します。少し長めに彼の言葉を引用してみましょう。
私の仕事はお客様にアドバイスをすることです。お客様のご要望はどのようなものでも叶えて差し上げたいと心から思っています。関心があるのは、お客様にとって何がベストかということだけです。だから、ライバル社の車のほうが適していると思えば、ちょっと見に行ってみたらいかがですかとアドバイスすることもあります。また、金利が下がるまで、あるいはお目当てのモデルの価格が下がるまで、2~3カ月待つようにと言うこともあります。時には、そもそも車は必要ないのではないかと、それとなく伝えることさえあります。「販売」を始めた瞬間に、私はお客様を失います。
アリ・リダは、車が売れるまでに7~8年かかることもあるといいます。ですが、その実直で真摯な姿勢により、顧客が顧客を連れてきてくれることで、彼は月販売額を維持しながらも、顧客にとって素晴らしいサービスを維持することができるのです。アリ・リダには、顧客に向き合うための独自の思想があり、その思想によって、ファンがファンを連れてきてくれる構造を作り、そのことが結果的に売上を維持する仕組みを構築しているのです。
アリ・リダがこの水準の実績を上げているのは、彼から車を購入した人々が他の誰からも車を買いたがらなくなるからだ。しかも、その人たちは友人たちに口コミをする。アリから車をかいたいという人々が毎日ディーラーにやって来るが、それは、他の店に行く前にアリに相談するようにと友人から強く言われたからなのだ。
人の心を支配するのは、ものごとを推進させようとする(例えば、商品・サービスの魅力とか、セールスプロモーションとか)燃料ではなく、「抵抗」であることを意識するということです。
私たちはついつい、上述の燃料について考えてしまう癖をもっています。でも、本当に大切なのは、その燃料の存在と抵抗の存在、両方を見極めながら、ものごとに向き合っていくというスタンスです。燃料は目につきやすいですが、残念ながら抵抗は積極的に探さなければなりません。抵抗を発見するのは難しいですが、相手に寄り添うことでそれも可能になります。
ケーキミックスの例を見てみると、いかに私たちが燃料の方に注力してしまうかがわかるでしょう。ケーキミックスが生まれた当時それは画期的なものでした。それまで家でケーキを作るときには材料をひとつひとつ買い揃えて、計量して自分でミックスしなければなりませんでした。しかし、こうした手間の排除に着目したベティクロッカー(アメリカの大手製粉メーカージェネラルミルズ社のブランド)は、ケーキ作りに必要な材料が含まれているミックスを開発しました。ただ、水を加えてかきまぜるだけで、すぐにオーブンに入れられる画期的なミックスを発売したのです。
しかし、売れ行きはいまいちなものでした。
ケーキミックスを画期的な商品たらしめている理由そのものが、ケーキミックスの問題点だということに気づくことができた。
発売当時まだまだ手料理を振る舞うことの基準は、厳しいものでした。到底水を加えるだけで完成するミックスは、手料理から程遠いものとして、手間がかからないのにもかからず、心理的に敬遠されてしまったのです。
そこで、当ブランドは、何をしたかというと、卵を加えるという工程をあえて顧客に課しました。このことにおよってケーキを1からつくるという手間を排除しながら、ケーキを「自分で作った」という感情を持つことができるようになり、アメリカでは当ブランドが市場を牽引することになります。
そして、現在でも変わらずほとんどのケーキミックスには卵を加える必要があるのは、こうした原点と、理由によるものです。
抵抗の発見が難しい理由は、2重に埋められてしまっているからです。そもそも人は自分を押し留めているものが実際には何なのかを理解していません。だから、他者がそれを理解しようとするときには、2重の発見をしなくてはならないのです。まず1つめは、他者が何らかの抵抗による逡巡をしているという発見、そしてもうひとつは、その実態を言語化するという発見です。実際には、他者も自分自身でその抵抗は何なのかを言語化して把握しているわけではないということに注意をしてみましょう。
初めてビールを飲んだときのことを思い出してみましょう。必ずしもおいしい!と思わなかったのでは?苦くてすこし生臭いような炭酸飲料を素直においしい!と思える人は、もしかしたら少ないかも知れません。しかし、繰り返し接触していく中で、あの喉越しや刺激が、長い1日の終りにやすらぎをもたらしてくれる味へと変化していくのです。
新しいアイデアというのはつまりビールのようなものです。繰り返し接触して、そのものに知ってもらい、慣れてもらう、そうしたごくごく当たり前の「単純接触効果」というのを侮ってはいけないということです。
抵抗を見つけて、それを打破していくのは、自分と相手の共同作業であるということも忘れてはならないと思います。商品やサービスに磨きをかけるのはもしかしたら、自分が主体となって行っていくことですが、採用のための抵抗を打破していくのは、自分と相手の協調がなくてはいけないのです。
そのためには、次に上げるいくつかのティップスを検討してみましょう。
- 何度も繰り返してみる。
- 小さく始めてみる。
- 伝達者をオーディエンスに似せる。
- 提案を典型的なものに似せる(メタファーを使う)。
- 極端な選択肢を追加する。
- 尖った選択肢に光を当てる。
- デフォルトにしてみる。
- UXデザイナーのように思考してみる。
- 負担を軽減する。
- デザインをシンプルにする。
- 選択肢を増やしすぎない。
- 進捗状況をユーザーに知らせる。
- 「なぜ」にフォーカスする。
- 行動観察者になる。
- 外部の人を引き入れてともに考える。
などです。
1.惰性
2.労力
3.感情
4.心理的反発
これらを念頭に、目の前のプロジェクトについて、再度点検をしてみましょう。
まとめ
- もう一つの大切な視点とは?――提案に磨きをかける推進燃料でなく、採用を阻害する抵抗力です。
- 4つの抵抗とは?――惰性、労力、感情、心理的反発をケアしましょう。
- 抵抗はどこにある?――積極的に発見し、言語化することで、まだ見えない抵抗を超えていきましょう。