【センスとは、ひとりひとりの自由である!?】センスの哲学|千葉雅也

センスの哲学
  • 日常の生活の中で、自分の感性を活かし、芸術的な思索を巡らせていくことは可能でしょうか?
  • 実は、センスを捉えてみることかも知れません。
  • なぜなら、センスはよりものごと(特に芸術の)見立てを自由にしてくれるものだからです。
  • 本書は、センスとは何かを捉える1冊です。
  • 本書を通じて、人を自由にしてくれるセンスという概念を楽しみながら育てていくことができます。
千葉雅也
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センスとは、自由である?

センスという言葉を聞いて、どんなイメージを持つでしょうか。センスのいい人、センスのいい服とか、人やものの形容にも使われるセンスですが、その言葉の意味の解像度を上げていくと、私たち人の感性や芸術とはなにか?について、触れていくことができます。なぜなら、センスとは、自分のものごとの知覚や認識がかたちづくるものだからです。

センスとは何かを考えていく時に、まず、センスとは「直感的にわかる」ことであるとイメージすることができます。直感を活かして、一挙に、全体的に、総合的にわかるということが、センスに繋がります。日常生活というのは、自然な動きの連続です。深く考えずになんとなくできるものでもあります。センスを考えることは直感を捉えることであり、そして、直感で構成されている日常の中に、芸術との接点を見出すことでもあります。

人間の特性、2つを見つめてみましょう。

1)関心の範囲を「ある狭さ」に限定しないと、不安定になってしまうこと。過剰に多くのことが気になってしまうから。
2)その一方で、未知のものに触れてみたいという気持ちは誰にでもあります。人間は自由を求めるためです。

人間とは、絶えず「認知」が余っているもので、余っているからこそ、いろいろ見たり、聞いたり、感じたりしたくなってしまいますが、それが過剰に入り込んでくると落ち着かなくなってしまう、というジレンマを生きています。

これは、本書のテーマでもあるセンスについても言えることかも知れません。センスという概念をそもそも見つめてみる過程で、新しい考え方やものごとをの捉え方自体を獲得していくこと、についても当てはまるかも知れません。

センスの話に戻ると、センスは直感的なものでした。そして、直感とは、感覚的でありながらも、完全に感覚だけでものごとを判断しているかというとそうでもなく、少しの思考的な要素も含まれているようでもあります。「感覚的思考」と「思考的感覚」の間にセンスがもたらされてきます。

「ヘタウマ」という言葉があります。例えば、絵でもイラストでも、上手でないのに、なぜだかうまく見えてしまう作品に対して使われます。この「ヘタウマ」として評価されるには、「不十分な再現性」+「無自覚に出てしまう身体性」が組み合わされることによります。身体性というのは、自分自身の線を描くという運動のことです。そして、あくまで観察物の再現がメインではなく、そうした自分自身の線を優先した結果としての作品が、「ヘタウマ」につながってきます。

そして、「ヘタウマ」とセンスがつながっていることも事実です。

  • モデルを再現するということから降りてみることが、センスの目覚めである。
  • 再現志向ではない、子どもの自由に戻ること。
  • それが、「ヘタウマ」になる。
  • 何かと同じになりたい=「再現性」を降りてみて、自分の自由を前に押し出してみること。
  • モデルのコピーを目指すのではなく、それを向こう側に置いておきながら、その手前で自分の自由を展開すること。

この本は「センスが良くなる本」です、と言いました。再現志向から降りるという最小限の姿勢の変化だけで、第一段階、あるいは第ゼロ段階として、センスが良くなったといえる、というのが本書の考えです。

モデルはあるにしても、それを抽象化して扱ってみることです。抽象化とは、意味を抜き出す行為であるとも捉えられます。ちなみに、AIには、それをすることができません。言葉同士の内容の「近さ・遠さ」はデータとして理解されているはずですが、「意味」を本来的に理解することができないからです。ただの量に還元するAIには、当然センスはないものだと考えられます。

抽象化については、こちらの1冊「【「わかりやすい!!」は、本当に価値なのか!?】具体と抽象|細谷功」も俯瞰的な視点を提供してくれます。おすすめです。

センスとは、リズムである?

センスのまた違った側面として、リズムで捉えるということもできます。音楽でも、美術でも、インテリアの配置でも、料理でも、その「リズムの多次元的な=マルチトラックでの配置」が意識できることがセンスに繋がります。

そしてその配置の面白さが、センスの良さをつくっているということも言えます。

より正確に意味を実現しようとして競うことから降りて、ものごとをリズムとして捉える。
このことが、最小限のセンスの良さである。

絵や音楽というのは、実際には、0から1への出来事の連続であると捉えることができます。実際にはディテールの中で、リズミカルな変化がもたらされていますが、それを全体的にみていくと一つの大きな作品として、認識をすることができます。複雑に絡み合ったディテールを意識することもできますし、全体として捉えることができるのが、絵や音楽の作品です。

こうしたリズムには、変化があります。同時に、リズムには「存在している状態」と「不在である状態」が繰り返されることも認めることができます。変化と「存在/不在」という観点で、リズムを見るとき、人間の性に訴えかけてくる理由を見つけることができます。

一般的に生物は安定状態を好みます。ですが、リズムの中には、まるで「いないいないばあ」のように、時折消えてしまいそうなディテールを認めることができます。そうした不安定な中に、感情の高ぶりや揺さぶりを経験することで、自分の感情や身体感覚を少し研ぎ澄ませることができる。そうした、感覚をもたらしてくれるものが、リズムにはあります。

そして、芸術作品や生活の一部を芸術的に楽しむことについて、単にリズムを感じてみること、すなわち、意味や目的からいったん離れて、ものをそれ自体として、楽しんでみることも可能であると気づきます。

形や色、響き、味などのリズムとしてそのものを楽しむ。「リズムだけでいい」という感覚になることがセンスの第1歩になります。即物的なディテールや、非常にちまちましたことに注目していくことです。

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そして、日常の芸術へ?

物語がある作品は、「意味がわかる」ものです。しかし、物語に関しても、やはりリズムを楽しむものかも知れません。そして、このリズムの中には、0→1の繰り返し=ビートがあり、同時に、もっと複雑でひとことではいえない小意味のうねりがあります。この両面が合わさって、物語を理解することもリズム的経験として捉えられます。

センスとは、喜怒哀楽を中心とする大まかな感動を半分に抑え、いろいろな部分の面白さに注目する小さな感動ができることであると捉えることをしてみます。全体の意味を知ったり、目的にふれる中で、感情が湧き上がることだけにフォーカスするのではなく、小さなことささやかなことについて、よりフォーカスする視点を保つことです。

「意味はわからないがそういうリズムなんだな」というだけで一応納得する力を、根本的には、誰もが持っていると思います。

そうした力を持ちながら、例えば、物語について「この人は復習がしたかったのだ」とか「正義は勝つのだ」という視点で感想を持ちながら、も、それをいったん脇に置いてみて、絡み合って展開するリズムを見ることで、起きていることの複雑なものを、複雑なままに取り扱うことがキーになるのかも知れません。

センスとは、そうした細部を楽しむ気持ちの中に宿ってくる・・

少し視点が飛んでしまいますが、仕事における、打ち合わせなどもそうかも知れません。全体を通じて、確か一つの結論や、方向性を見出すことを常に目指すものですが、しかし、その中にあっても、一人ひとりの発言や表情、そして、思惑について感じ取りながら、進めていくことで、何か別の感性を起動させながら、そうした時間と同期することができます。

作品にもリズムはありますし、実は私たち自身からもリズムは発せられています。

個性とは、何かを反復してしまうことではないでしょうか。

どうしても、抑えることのない反復活動が、私たち一人一人の特性を形作っていきます。そして、そうした反復活動を認めて、他者のそれを真似するということよりも、自分の線を自由なままに描き出していくことに、センスの表現と、そして、その先の生活の中に芸術的なものを認めることにつながっていくように思えます。

芸術とは、それを作り人の「どうしようもなさ」を表すものだと思います。何らかの反復です。

大切なのは、反復が恣意的なものではなく、必然性を帯びていることです。それは生きることについての切実な必然であるのかも知れません。生物として、刺激の嵐のなかで、自分の主体性を認めるための反復が必要であるとき、そういうことをするしかなかったという必然の中に、その人の自由な芸術が見えかかってくるのです。

人生は、何かを反復し、変奏していく。

芸術家・岡本太郎さんの1冊「【芸術、即、人間。】誰だって芸術家|岡本太郎」がよぎりました・・!

まとめ

  • センスとは、自由である?――「モデル・憧れ」からの自由を得ます。
  • センスとは、リズムである?――小さな反復活動の結果もたらされる複雑なリズムを感じることです。
  • そして、日常の芸術へ?――何かのコピーをやめて、自分のどうしようもなさを認めてみましょう。
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