- どうしたら答えのない問いについて、思いを巡らせ続けることができるでしょうか。
- 実は、「哲学対話」が大切かも。
- なぜなら、「悩み」を抱え続けながら、考える体質を磨くことができるからです。
- 本書は、1人ではなく他者と問いに向き合う方法論に関する1冊です。
- 本書を通じて、「哲学対話」という営みの特徴と方法について触れられます。
対話4つの思考とは?
昨日の投稿「【深い対話とは、自分を変えるものである?】ゼロからはじめる哲学対話|河野哲也」に続き今回もこちらの1冊『ゼロからはじめる哲学対話』のご紹介を続けてみたいと思います。
生きていく際に、自分の考え方にもっとフォーカスして、違和感や、もやもやをそのままにおいておかない方法論が、「哲学対話」にはあります。自分ひとりではなく、他者と共に、1つの問いに向けて考え続ける姿勢を身につけることは、自分の頭で考え続けるという孤独を受け入れやすくなるということでもあります。
他者と共に考えるということは、少なくとも、よりよい答えを求めなければならないということでもあります。みんなが関わって、答えがないような問い、例えば、人は何を目指して生きるのか?幸福とはどういった状態を指すのか?などについて、真剣に話を聞き、自らが考えるということは、他者のちからも借りながら、自分の考えをアップデートして、共に思考を深堀りしていく効果を得られます。
また、人も考えているという状態は、よりよい刺激となって、その後も考える姿勢を保ち続けさせてくれるでしょう。
哲学的な対話を通じて、以下のような思考のベクトルを持つことができます。
- 批判的思考
- 自律的思考
- 共同的思考
- 創造的思考
これらは、学びの基盤であるとも言えます。例えば、1+1=?のようにすでに答えが明示されて、かつ問いも提供されることとは違って、答えがひとりひとり違うようなことや、道徳や倫理に関するものごとについての思考を、自分から積極的に考える姿勢にもつながります。
学校での学びは、知識のパーツの最小限を得る営みです。しかし、それだけでは、生涯を通じた学びには繋がりにくいのも事実です。なぜなら、知識のパーツがあったところで、問い続け、学び続ける姿勢というのは、身に付けられないからです。
いわば学校知と生活知が乖離しているのです。
生活の中で、ふと沸き起こる問いについて、置いてきぼりにしないで、しっかりとすくい取ってみることに、生きるヒントを見出すことができるかもしれません。
深い対話とはなんだろう?
問いや思考の「深さ」とは何でしょうか。
それは、自分の頭でどれだけ考えて、ものごとの考え方を受け入れているかどうか?ということなのかもしれません。
無批判に習得してきた考え方や信念、常識、習慣といった自分を拘束している枠組みに気づき、それを自覚して検討に付し、再構成するプロセスです。
他者との話し合い(特に、しっかり聞くこと)を通じて、自分の考えや信念、常識について批判的かつ反省的に施工していく中で、自分の当たり前を疑う視点を持つことを得ることができます。従来の枠組みにとらわれていた自分を解放して、よれよりもわからないことが増えるのですが、一方で自由になることができます。
自分が信じていたことを揺さぶられて、常識とされていることをちょっと立ち止まって、概念の定義の検討を余儀なくされて、意味や根拠を探す必要が出てきています。以前には、考慮さえしていなかった選択肢に気づきを得ることで、自分を変えるヒントを得ることができる可能性を得られます。
対話の過程において、以下のような経験をすることになります。
- わたし自身が、思考をする中で、深く入り込み孤独を感じる瞬間を持つ。
- 他者のさまざまな発言を傾聴する中で、わたしの内部にあった複数の「声」が他者に吸い取られていく。
- わたしがわたしであるという一種の孤独の経験をする。
対話は、自分の内なる他者を外化すします。
自分自身という存在が確かなものだと思っていたけれど、溶け出していく中で自分がなくなるような感覚と、同時にわからなくなることがたくさん増えていく中で、自由を感じえることができるのが、対話の魅力なのです。
「哲学対話」の方法とは?
「哲学対話」をするためのルールは、次のようなものが一般的です。
1)難しい言葉を使わない。
2)人の話をさえぎらない。
3)全否定をしない。
「哲学対話」は、何も哲学の専門家が研究のための思考を深堀りするのではありません。日常を生きる人たちが、当たり前だと思っていたことがらに問いを立てて、そもそもを考えてみたり、理由や背景を探ってみたりする活動です。日常の言葉で、しかし、自分の言葉で話してみることが大切です。
また、人の話をさえぎらず、しっかりと聞くこともポイントです。人の話の中に、自分を見出すというか、自分の考えや異なる部分を見出すことで、自分の中で反芻するように考えることだってできます。むしろそうした自分の中にもう一人の自分を見出して、何重かの対話を重ねていくことに、可能性を見出すことができそうです。対話は重層するものなのですね。
テーマについては、
- 「~とは何だろう」
- 「~はなぜだろう」
といった形が、ベースになります。二者択一を避けて、参加者それぞれが考えられるようなテーマを設定し互いに思考を巡らせることがポイントです。
実際に対話は平成30年版高等学校学習指導要領において、公民科「倫理」に「哲学に関わる対話的な手法」の導入が示されています。他者との対話の中から考えを深めていくことが学びとして、重視され始めていると言ってもいいのかもしれません。
「哲学対話」では、完全に答えが見出すことのできないような問いに向き合っていきます。「哲学対話」の1h~3hの間では到底答えを出すことはできないし、さらにわからないことが増えてモヤモヤするかもしれません。ですが、問いを抱えて生きていくことはとても大切なことです。考えることから逃げずに、悩みに向き合う姿勢を保つことができるからです。
誰かに問いや答えを与えられるのではなく、自分の感性を通じて悩んだことは、きっと自分のために使える智慧になります。単純に知識を得るだけの勉強ではなく、自分で自分を切り拓いていくようなそんな学びを体得することができるのです。
悩みに向き合う力
「悩み」とは、答えのないことについて、もやもやを抱え続けるということです。時折「悩む」ではなく「考える」ことが推奨されますが、これは「課題定義」を明確にして、答えを1つ見出すことを促すものです。でも、実際に人生は、そうした割り切れないものだらけでできています。「悩み」を認め、抱えながら生きていくことができるという姿勢を磨くことが、長い人生をよりよく生きていくヒントなのかもしれません。
まとめ
- 対話4つの思考とは?――批判、自律、共同、創造、すべてを駆使して、自己変容を目指しましょう。
- 深い対話とはなんだろう?――自分を変容させるほど、言葉の定義を溶かすことです。
- 「哲学対話」の方法とは?――3つのルールを守り、Openな問いを設定しましょう。