- いかに創造性を育むアプローチを取ることができるでしょうか?
- 実は、いわゆる「デザイン思考」では難しいかもしれません。
- なぜなら、一般的に言われる「デザイン思考」はイノベーションを生むものではないからです。
- 本書は、「デザイン思考」のポイントをまとめ、いかにバイアスの破壊を行える方法論として運用することができるのかを説く1冊です。
- 本書を通じて、最初に何に着眼点を置くかヒントを得ることができます。
デザイン思考とは?
本書の著者である濱口秀司さんは、京都大学卒業後、松下電工(現在のパナソニック)に入社し、全社戦略投資案件の担当者として活躍、その後、1998年から米国のイノベーションファームZibaに参画しました。USBメモリをはじめ、数々の画期的なコンセプト開発をリードしてきました。
その後、パナソニック電工新事業企画部長、パナソニック電工米国研究所上席副社長、米国ソフトウェアベンチャーのCOOを歴任。2009年にZibaに再参画してからは、当社のエグゼクティブフェローをつとめながら、イノベーション・シンキング(変革的思考法)に基づく、研究開発やコンセプトメイクで世界をリードしてきました。
そんな濱口秀司さんは、一般的な「デザイン思考」に疑問を投げかけます。
一般的にいわれている「デザイン思考」というものが、本来はイノベーションを生むためのものでは「ない」からである。
そもそもデザイン思考は、革新的な問題解決アプローチとして注目されています。その核心は、ユーザー中心の考え方にあります。主なステップは以下の5つです。
- 共感:ユーザーの立場に立ち、真のニーズを理解する
- 問題定義:真の課題を明確にする
- アイデア創出:多様なアイデアを生み出す
- プロトタイプ作成:アイデアを具現化する
- テスト:ユーザーからフィードバックを得て改善する
このプロセスは線形ではなく、反復的(ぐるぐる回りながらよりよく向上していける)です。各段階で得た洞察を基に、前のステップに戻ることも多々あります。デザイン思考の強みは、創造性と分析を融合させ、ユーザーのニーズと技術的な実現可能性、ビジネスの要求のバランスを取ることです。この方法により、革新的かつ実用的なソリューションが生まれやすくなります。
起点が「ユーザー中心」であるということがポイントとなっているのが、デザイン思考であるとも言えます。
ユーザーを中心として見つめて、「ニーズの本質をつかむ」「アイデアをたくさん出す」「アイデアを絞り込む」という大きなステップを循環させていくものです。
そもそもイノベーションとは?
世の中の変化を受け入れながら、自ら市場を作り出し、世の中を根本的により良くするアプローチとして、多くの企業でイノベーティブなものづくり、コトづくりが盛んに目指され、イノベーションというキーワードもたくさん聞かれるようになりました。
でも、そもそもイノベーションとはなんでしょうか?
3つの要素が含有されるものです。
1)見たこと・聞いたことがない。
2)実行可能である。
3)議論を生む。(賛成/反対 両極端)
この3つの要素と先のデザイン思考のステップを冷静に比べてみると、ギャップが見出されます。
ニーズの本質を満たすことは、見たこと・聞いたことがない製品やサービスをつくることを最初からめざしているわけではない。
実は、デザイン思考は、ユーザーの意見に多く耳を傾けることを起点とすることから、そもそも見たこと・聞いたことがない製品やサービスをつくることを最初から目指しているわけではないのです。
しばしば、イノベーションの事例として、馬車の時代の話があります。もっと早く移動したい!と願って、「もっとはやい馬」を育成してしまうのと同じように、現在のニーズに照らしても、必ずしも「自動車」が発明される保証はないということです。
ニーズの本質からアイデアを生む一般的な「デザイン思考」のプロトコルを、すでに存在する製品・サービスの改善・改良の手段としてとらえると、これは十分に力を発揮する。
改善・改良からは、イノベーションは生まれません。
超・デザイン思考とは?
イノベーションは、結果的にこれまで当たり前とされてきた概念や常識を破壊します。
イノベーションはバイアスの破壊から生まれる。
人が囚われていた概念を破壊し、新しいものごとを社会に生み出すのがイノベーションであると言えます。一般的な「デザイン思考」ではなく、「デザイン思考」を超えるデザイン思考の運用が必要になります。起点をユーザーではなく、クリエーターにしてみることです。
業界のプロの企画者たちが陥るバイアスを見出します。いかにクリエーターやデザイナーがアイデアを生み出すのか?に焦点を絞り込み、既成概念の構造化をはかることで、これによらないものづくりやサービス設計を可能としようとするものです。
バイアスを見つけ、それを破壊するアイデアを構築するというのが、本書が提案する「デザイン思考」を超えるデザイン思考ということになります。
フラッシュメモリーのコンセプトに照らして、バイアスをいかに破壊する視点を得るのかについて見ていきましょう。
USBメモリから新しい記憶媒体の可能性が模索され始めた時、同時にインターネットの登場により、データはインターネット上(現在で言う、クラウド上)に保管することが予見されていました。そのために、開発者やデザイナーは形のないものに記憶媒体としての機能をもたせるコンセプトを常に検討し始めていました。しかし、ここで著者らのプロジェクトは、あえて形あるフラッシュメモリーという媒体にこだわります。その方が、保存容量も大きいうえに、取り回しが容易だったためです。
さらに、フラッシュメモリーを差し込んでドライバーをインストールするという手間をなくせるのではないか?という視点にたち、当時新しい記録メディアを初めて活用する際には必要とされたインストール手順をなくしました。このためには、USBで活用されていた技術(マスストレージクラスという補助記憶装置をPCに認識されるもの)を転用しています。
最後に、フラッシュメモリーという媒体を提供すること、その先の社会普及させるための戦略についても、バイアスを除去することに成功しています。技術を1社で独占するのではなく、OEMとして開放することで、市場普及を加速させ、デファクトスタンダードを獲得することを狙ったのです。
このように、フラッシュメモリーの登場の際には、1)かたちあるものの開発(コトではなくモノへの逆転の発想)、2)ドライバーインストールの手順の除去(UI/UXの向上)、3)社会普及(自社独占からOEMへ)という3つのバイアスを突破しながら、新しいメディアフォーマットの市場普及を達成したと言えるでしょう。
こうしたバイアスを除去するアプローチの際には、頭の使い方がとても大切です。論理的になりすぎれば、過去の延長線上でしかものごとをとらえることができず、直感的になりすぎれば実現が不可能です。大切なのはその間の状態をあえて目指し創造性をもたらす場を設定できるかということです。
効果的なブレストをするためにはmず、思考のモードを論理思考と非論理思考の中間に持っていくことが重要である。
真にイノベーティブなアイデアは賛否が分かれるのは当然です。だから、多数決でアイデアを選ぶことに対する意味はこの時点ではありません。特定の参加者の強い意志によって、ものごとが決められていくことを支援しましょう。
「デザイン思考」を超えるデザイン思考のステップをまとめてみます。
ステップ1)アイデアの中から面白いと思うものを選択してまとまりを見出します。抽象化するステップです。
ステップ2)複数の切り口を組み合わせて構造化し、クリエーターやデザイナーの発想をモデル化します。
ステップ3)イノベーションを起こすために、包括モデルを破壊し、新しいアイデアを生み出すアプローチを見出します。
ステップ3の段階で、アイデアを生み出すためのフレームワーク自体を作り変える発想を持つということが最も重要なアクションとなります。
バイアスの破壊により生まれた新しいアイデアに対して、最初のうちは、それが何の役に立つのか?市場に定着するのか?などの議論を巻き起こすことは当然想定されます。それでも、他者を説得しながら、魅力的なアイデアとして、社会実装を行っていくために、ニーズは後付することで対応していくことが理想です。
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まとめ
- デザイン思考とは?――ユーザーのニーズ起点で、改善・改良をすることです。
- そもそもイノベーションとは?――既成概念を破壊するものであるはずです。
- 超・デザイン思考とは?――アイデアを生み出すための枠組み自体を発明する行為です。