【能力は、本当にあるのか?万能か?】「能力」の生きづらさをほぐす|勅使川原真衣

「能力」の生きづらさをほぐす
  • 私たちを苦しめている考え方は、なんでしょうか?
  • 実は、能力主義であることかもしれません。
  • なぜなら、人と人がともに生きる場で生じる不安や違和感の多くは、他者との「関係性」の問題だからです。
  • 本書は、なぜ、能力がフォーカスされているのか、みながそれを盲目的に信じているのかを問う1冊です。
  • 本書を通じて、社会での生きづらさの原因に、ふれることができるかもしれません。
勅使川原真衣
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能力って本当にあるの?

人と人がともに生きる場で生じる不安や違和感の多くは、他者との「関係性」の問題なのにもかかわらず、私たちは、「個人」に注目してしまいます。そして、もっというと「個人」の「能力」に注目してしまうのです。

コミュニケーション力、文章力、表現力、クリエイティビティ・・などなど、能力は抽象度を増して、それが本当にあるのかどうかもわからないまま、巷にはその「能力向上」のビジネス書が溢れているのが現代です。

「能力」にフォーカスすることは、私たちひとりひとりに「欠乏」を突きつけます。あなたが、うまくいかないことがある場合は、能力が不足しているからかもしれません。そのためには、それを補って努力していく必要があります。それをなくして、人生は好転しません。と、あらゆる角度から、社会が発破をかけてきます。

私たちが「能力」に慣れてしまうのは、教育に原因を求めることもできます。小中高大学と、レイヤーが進んでいく中で、私たちは、定量的に学習の進捗を測られます。そして、生きたい学校を選択する際にも、試験と言う名前の能力測定は行われます。「学力」を測られることになれているがあまり、私たちは自分たちには能力が必要で、それを高め続けていかなければ、よりよい環境を作り出せせないと思ってしまいます。

でも本当は順番が異なるのです。能力があって、環境が作られるのではなく、環境次第で、その能力というか特性の発揮状況や解釈は全く異なるということを、前提として理解する必要があります。

一番はじめにお伝えしたい事実。それは、「能力」に基づく社会的地位や社会資源の分配、職歴や収入といったものは、公平な社会の仕組みの産物のようでいて、実際は「生まれ」による影響が強いことがすでに明らかになっている。

教育は、経済成長を支えていく標準化された労働力を社会に提供する仕組みだけではなく、「能力」こそが重要であるという意識を植え付けることで、その不公平感を是正する切り札でもあったのだと思われます。

また、このある意味での洗脳は、私たちを従順で真面目な勤労と学習に骨身を惜しまない人材としての、労働市場フィットを行っていったと考えれば、なかなか恐ろしい世界観です。

教育の負の側面とは?

教育は普及しました。教育がもたらしたものは、次のような通奏低音でした。

「頑張れば、なんにでもなれる!機会は平等なのだから、それを生かすも殺すも自分次第」
「能力に合わせた将来が自分の意志で選べるなんて、江戸時代ではなく現代に生まれてよかった」

教育があまりに「平等に」「能力を伸ばすもの」と信じられているから、もともとある生まれの格差は置いてきぼりになって、あたかも公平なレースをしている感覚を皆が共有させられる状況を今日まで引き継いできています。

平等と信じられた日本の教育が、かえって、生まれの格差を是正しようという気持ちになりにくい仕組みをつくり上げている。

「機会の平等」を重視したことが、「結果の不平等」を放置することにもなっているのです。

能力という幻のような概念が、社会原理にまで上り詰めて、私たちの生きづらさを助長しているとも捉えることができるのです。

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生き様は心構えから?

冒頭の通り、私たちの特性の発揮はその場その場で、移ろいでいくものですし、そして、その結果もたらされる状況というのは、やはりそれも変化し続けていくものです。

能力開発の陰で置き去りになる「関係性」

能力を高めよ!能力の欠乏を補え!ということにフォーカスしていてはいつまでたっても、分断や「結果の不平等」を解消することは困難なのではないかと思います。本当に大切なのは、「関係性」の中に自分を見出すこと、あるいは他者の立場を見出すことだと思われます。

能力は固定的に存在するわけけではなく、関係性次第。絶えず社内の関係性を調整しないとダメなんです

会社でも、学校でも、本当に大切なのは、絶え間ない関係性の調整です。誰と誰を組み合わせて、どの業務にあたらせてみようかとか、どうやって仕事を割り振ればいいだろうか、を絶えず考え続けて、ひとりひとりの場作りに会社組織は責任を持つことが求められています。

「能力主義」「能力開発」をあまりに際立たせてしまうと、会社は責任放棄をしていると思われても仕方ないかもしれません。なぜなら組織で判断するべき関係性の調整をないがしろにして、ひとりひとりの個人にその責務を担わせてしまっていることになるからです。

著者・勅使河原真衣さんは、本書の結びに、人類学者の磯野真穂さんの1冊『他者と生きる リスク・病い・死をめぐる人類学』の一節を取り上げてくれています。

「置かれた状況と自ら関わり、その関係性の内部で動き、それによって引き起こされる変化のなかで生き直すことを許容すること」が「なかったことにしない」人生だと。

能力というよりも、生きるためには、心構えのようなものが起点になるのかもしれないと思いました。

まとめ

  • 能力って本当にあるの?――幻のような概念で、私たちを分断し、不平等をもたらす根源です。
  • 教育の負の側面とは?――能力を定量的にはかり、選抜・配分をすすめました。
  • 生き様は心構えから?――他者やものごとの関係性と向き合うための心構えが大切です。
勅使川原真衣
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