- 限りある人生という時間をどうしたら、豊かなものにできるでしょうか。
- 実は、浪費をなくすことです。
- なぜなら、想像以上に私たちは、時間という貴重な資源を浪費しているからです。
- 本書は、そんな時間との向き合い方をもう一度、考える1冊です。
- 本書を通じて、時間の使い方=自分の生き方について、意識を向けることができます。
なぜ時間は浪費されるのか?
古代ローマの哲学者セネカは、次のように語りました。
人生は短いのではなく浪費している。
私たちは、時間というものがとても貴重なことを知っています。何より、失っては取り戻せないし、お金でも買えません。なにものにも代えがたい時間という資源を、私たちは、浪費しすぎているのかもしれません。気づけばスマホをダラダラみてしまった、前日飲みすぎて土日を棒に振ってしまった・・という経験は誰しもあるでしょう。
ちなみにセネカに関してはこちらの1冊「【多忙は人生を損している!?】人生の短さについて|セネカ」もご覧ください。
いずれの自己啓発本も「時間を浪費しないようにするべきだ」「くだらないことをやめよう」「大切だと思うことに時間を割くようにしよう」ということを一貫して語ってくれています。それほど、人は時間に対してルーズになりがちなのです。
こちらの1冊「【時間は、密度である!?】なぜ、時間を生かせないのか|田坂広志」でもみていった通り、時間を浪費してしまう背景には、人のとある考え方が横たわっているからです。それは、「死を直視しないことで、自分の人生をあたかも無限のように捉えている」というものです。死を直視することはとても難しいことです。誰も死を事前に体験している人はいないので、実感を得ることができずに、想定することができません。
だから、ギリギリになっても死を信じることはできないでしょう。
でも、誰しも平等に死はやってきます。死を前提に生きてみることで、いまここ、この瞬間をとても大切で貴重なものとして、生きることが可能になります。
日本のAI研究の第一人者である東京大学の松尾豊先生は、産業技術総合研究所の研究員だった時代に次のようなタイトルの論文を執筆しています。『なぜ私たちはいつも締め切りに追われるのか』というもの。先生は、「創造的な仕事に集中力は欠かせないが、それは時間的な制約がなければ上げにくいものである」とも言います。
時間が限られているということを前提に、行動をすることは時間を活かすために欠かせない視点なのかもしれません。
今回ご紹介する本書『あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』が貫くのは、「時間の使い方」ではなく、「時間に対する向き合い方」が重要であるという考え方です。
時間を活かすには?
著者の佐藤舞さんによると、人生の中で時間を浪費してしまうのは、自分の向き合いたくないものと、向き合うことを思わず避けているという心理にあるとのことです。
1)死への不安に対して悩まないようにするために、何かに没頭しているようにする。
2)孤独の不安に対して悩まないようにするために、友人やパートナーを探して寂しさを紛らわせる。
3)責任の不安に対して悩まないようにするために、他人に決めてもらうことで責任を回避する。
死が迫りくる本当に短い80年という人生を生きていくためには、もしかしたら、人生をかけたプロジェクトについて取り組んでみることもいいのかもしれません。しかし、人はそうしたことにどこかで気付きながらも、眼の前に与えられたプロジェクトや仕事に取り組みがちです。そして、それがあたかも自分が、心から求めていたかのように振る舞います。
あまりにここではないどこか、眼の前のことではない何か、に囚われすぎてしまうのもよろしくないのかもしれませんが、提供されたものだけをすべてだと思うのは、すこし寂しい気持ちにもなります。
あるいは、寂しさを紛らわせるために他者に依存してしまうのも、よりよい結果を生み出さなそうです。
本書が目指す「有意義な時間の使い方」とは、自分の人生の舵を自分で握ることとその覚悟、そして智慧を手に入れ、人生の3つの理(死・孤独・責任)を受け入れながら、人生をコントロールしていくこと、と定義します。
また、時間を活かすために必要な視点として、次の3つも提示されます。
1)変えられないものと、変えられるものを区別する。
2)人生に対して、主体的に参加する。
3)人生に苦は必要である。
これらを前提に自分の時間の使い方を見極めていくことが基本路線になりそうです。
幸福度を決定する要因として、「主体性」の重要性を語ってくれるのは、カリフォルニア大学で社会心理学とポジティブ心理学の教鞭を取っているソニア・リュボミアスキー教授です。教授は、人の幸福度の決定要因として、遺伝50%、生活環境や状況10%、残り40%が「意図的な行動」で説明されることを説きました。
また、長い人生の中で、自分を研鑽していくことも欠かせないファクターとなります。自分を磨くとは、以前の自分とは異なる自分を目指す、ある意味変身です。これまでとは異なる考え方や発想を得るためには、一定の安定状態を捨てる覚悟と勇気、そして行動が必要です。それをなくして、より良い人生の時間の使い方を得ることは難しいでしょう。
実際にはこれまで払ってきたコスト(時間・労力・お金)の総量が、幸福感を高める傾向があります。
これを「努力のパラドクス」というそうです。確かに、タイパやコスパのような考え方も大切なのかもしれませんが、それが効果を発揮するのはあくまで短期的で、中長期的には、自分が衝動的に突き詰めたいテーマに対する取り組みを継続し、自らをアップデートしていく活動を続けてみるということが欠かせないのかもしれません。
自分の創造性を見出すためにも、衝動について触れてみることもありかもしれません。こちらの1冊「【自分を「型」から解放するには!?】人生のレールを外れる衝動のみつけかた|谷川嘉浩」もぜひご覧ください。
自分は探してもどこにもいない!?
後悔する時間の使い方と、そうではなく、人生を充実させられる時間の使い方を知りましょう。
<後悔する時間の使い方>
- 自分で変えられないことに悩み続ける。
- 富や名声など、外発的な動機で動き続ける。
- 苦痛を避け、楽な選択をし続ける。
<人生を充実させられる時間の使い方>
- 自分で変えられることに集中する。
- 自分の価値観など、内発的な動機を大切にし、行動する。
- ストレスを自身の成長の糧にする。
自分探しという言葉がありますが、これは少し危ういものがあります。「確固たる自分」というものは存在しないからです。環境が絶えず揺らいでいる通り、環境の一部である自分も絶えず揺らいでいます。だから、絶対的に確定された自分というのは、どこを探しても見つかるはずがありません。
それよりも、大切なのは、いまここを生きるものとして、環境の刺激をヒントに、自分自身の中に芽生える素直な衝動を大切にすることです。特に意識していなくても、気持ちが向かってしまうことに対して、素直になってみることが、最初の1歩を踏み出させてくれるのかもしれません。
価値観は、環境の中で、絶えず磨かれ、形を変えていきます。自分が何を信じるのかについて、アンテナを立てながら、自分の感性の責任を引き受けてみましょう。そうした主体的な生き方が、時間を活かすことに繋がり、そして人生をより良くするベクトルを絶えず持ち続ける原動力となります。
心理学において、「自分のあるべき姿」と「あるがままの自分」が同じ状態を「自己一致」といいます。自己一致の状態にある人は、自然体で人を惹きつける魅力があり、表裏がなくさっぱりとしているので、一緒にいると快適です。そんな人を目指していきたいものです。
自己一致の状態を目指すには、自分は人生で何が欲しいのか、何を大切にしたいのかを分かっていることが重要です。
まとめ
- なぜ時間は浪費されるのか?――不(死・孤独・責任)から逃げるからです。
- 時間を活かすには?――変えられるものを見極め、主体的に関わり、時に苦を受け入れることです。
- 自分は探してもどこにもいない!?――いまここにいる自分より他に、自分は存在しません。