- どうしたら子どもの行動に、よりよく向き合うことができるでしょうか。
- 実は、行動を行動の反応として考えてみることです。
- なぜなら、意図的な行動よりも、「適応的な反応」が主体なのです。
- 本書は、人の行動の根源をニューロダイバーシティに求める1冊です。
- 本書を通じて、子どもを見つめる目を養うことができます。
行動とは何か?
本書は、いわゆる問題とされる行動をしてしまう子どもに対してどのような考え方で向き合うのか、そして、その子どもの行動をどうしたら変えていけるのかを検討します。
持続的で、問題のある行動の多くは、子どもが脅威のニューロセプションを経験したときに起こる、生理的なストレス反応の表れなのです。
問題行動は、「適応的な反応」であると考えてみることが大切です。意図的な行動というよりも、子どもの反応が、私たちの目に映ると「問題」として認識されます。
私たちの多くは次の3つの間違いを犯してしまいがちです。
1)対処する前に行動の原因を正しく特定しない。
2)個人に合わせるのではなく、画一的なアプローチにする。
3)適切な時期に適切なアプローチを行うための発達上のロードマップを使用しない。
こうした考え方の準備がないままに、子どもに向き合うことで、繰り返し叱ってしまったり、互いに学びのない習慣を積み重ねてしまう可能性があります。
子どもは、意図的に行動を選択した、あるいは誤った行動をとったと思いがちです。しかし実際には、その実態の多くは、意図的に挑戦的な行動をとったのではなく、「ストレス」に対する反応です。
ひとりひとりの違いや、その背景、ストレスなどに想像の領域を及ぼしながら向き合うことが大切です。関係性の構築の方針やを検討していきましょう。
そもそも「行動」とはなんであるのか?を考えてみるべきです。
これは私たちの「内的・外的な経験に対する観察可能な反応」であると表現することができるでしょう。内側で何らかの現象があって、それに対する反応が起こる、あるいは、外部からの刺激に対して何らかの反応をします。それらが、外部の観察者から行動としてみなされます。そうやって考えて見てみると、常に行動の裏側には何らかの原因となる刺激があるのです。
生存本能を知ろう?
目に見えるものが行動であり、刺激は目に見えないものです。目に見えない領域まで検討することなく、目に見えることだけで対処をしてしまうと、根本的な解決を目指すことができません。
私たちは、目に見えるものばかりに気をとられて、水面下を見る時間をとらないことが多い
人を氷山の一角で全体像をとらえてみましょう。氷山の先端だけ見ているのが、行動です。そして、水面下には、膨大な領域が広がっており、これが反応の原因となるその人、固有の刺激に対する反応システムです。
持続的な行動上の課題を変えるのが難しい理由のひとつは、水面下を想定せずに、間違ったターゲットに対して、対処をしてしまうことがあります。行動を「良い」「悪い」と判断するのではなく、行動の原因について、思考を及ぼしてみましょう。
行動反応は、人の神経系がストレスに対する身体の反応をつねに調整している様子を表しているといいます。
子どもの行動は、ひとつ生存本能に関わる反応であることが多いです。生存本能とは、次の3つの視点で捉えてみると理解が深まります。
1)社会交流
2)防衛(闘争/逃避)
3)生命の機器(シャットダウン)
社会交流の視点
子どもにとって、社会交流は特に重要です:
- 愛着形成:乳幼児期の養育者との愛着関係は、生存と健全な発達の基盤となります。これは安全基地理論として知られています。
- 模倣学習:子どもは周囲の大人や他の子どもの行動を観察し模倣することで、生存に必要なスキルを学びます。
- 集団への帰属:学校や遊び仲間などの集団に属することで、安全感と所属感を得ます。いじめなどの排除は、この本能を脅かすため深刻な影響を与えます。
- 援助要請:困ったときに大人や仲間に助けを求める行動も、社会交流を通じた生存戦略の一つです。
防衛(闘争/逃避)の視点
子どもの防衛反応は、より原始的で直接的な形で現れることがあります:
- 泣く:乳幼児期の主要な防衛手段で、危険を知らせたり援助を求めたりする機能があります。
- かんしゃく:「闘争」反応の一形態で、不満や恐れを表現する手段となります。
- 隠れる:「逃避」反応の典型で、物理的に安全な場所を求める行動として現れます。
- 反抗:年齢が上がるにつれ、言語的な「闘争」反応として現れることがあります。
生命の機器(シャットダウン)の視点
子どもは特にストレスに弱く、シャットダウン反応が顕著に現れることがあります:
- 解離:トラウマ的な体験に対して、現実から精神的に切り離れる反応が起きやすいです。例えば、虐待を受けた子どもが「何も感じない」状態になることがあります。
- 退行:ストレスに対して、以前の発達段階の行動(指しゃぶりなど)に戻ることがあります。これは一種のシャットダウン反応と見なせます。
- 選択性緘黙(せんたくせいかんもく):特定の社会的状況で話せなくなる症状も、極度のストレスによるシャットダウンの一形態と考えられます。
大人にも活かせる?
大切なのは、子どもに「行動」という目に見える形のルールを押し付けることではありません。本当に大切なのは、ひとりひとりの情動システムによりそい、行動抑制の原因と向き合っていくことです。
そのためにも、大人である私たちが、なによりおちついて子どもと向き合うことができる状態をキープすることが大切でしょう。自分のことでいっぱいいっぱいの時に、子どもの状態を素直に見つめることは困難です。
私たちは自分自身が落ち着いているときに、子どもを最もよくサポートすることができます。
子どもの行動と向き合うためには、上述の通り氷山の一角=行動であると意識して、その背景に想像力を働かせなくてはなりません。ちょっと立ち止まって、見つめて相対していくことがキーです。
行動を叱責を元に排除するのではなく、「なぜそのような行動がもたらされているのか、その原因は何なのか?」という意識をすることで、指摘の対象がその子ども自身ではなく、その子どもが包まれている環境に及ぶことが可能になります。
この視点は、子どもだけではなく、チームのメンバーとの関係性や、大人の働き方についても適応できます。大人だって、その背景や環境によって多くの反応をして、結果としての言動を行っています。だから、意識して操作するべきは、背景やあるいは、人と人の関係性の状態ということになります。
この点については、こちらの投稿「【人は、なぜ共に働くのか?】働くということ 「能力主義」を超えて|勅使川原真衣」の能力主義の問題点の本質にもつながるように思います。ぜひ本投稿と合わせて、ご覧ください。
行動を無視してはいけない――因果関係の氷山に目を向けよ
人が人に考えを押し付けるのではなく、愛情のある人間関係の中で、ひとりひとりの人のニーズや背景、状況に合わせて、互いに安全を感じることのできる深い水面下の理解に意識を及ぼしていくようにしましょう。
まとめ
- 行動とは何か?――それは何らかの刺激や背景に対する「反応」です。
- 生存本能を知ろう?――3つの視点で、子どもの反応の原因を知りましょう。
- 大人にも活かせる?――大人の世界においても、言動は、刺激に対する反応であると捉えてみましょう。