【「叱る」から人は、まったく学ばない!?】〈叱る依存〉がとまらない|村中直人

〈叱る依存〉がとまらない
  • 「叱る」ことは、効果があるのでしょうか。
  • 実は、(成長や学びにおいて)想像以上に効果がありません。
  • なぜなら、叱られる人は、単なる回避、そして叱る人には、依存をもたらします。
  • 本書は、叱るとは何か、そして心理的なアプローチでその意味の無さを解き明かします。
  • 本書を通じて、叱ると向き合うことのできる知識を得ます。
村中直人
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叱るの意図とは?

日本の社会は、知らず知らず、叱るに対して肯定的なメッセージを発信しているようです。教育現場では、叱ることのできない教師は、非難の的になりますし、スポーツの世界でも、監督やコーチという存在は絶対で、彼らの「指導」が行き過ぎていたとしても、それが良しとされています。

あるいは、子育てをしている人であれば、「甘やかさずに叱る」ということについて葛藤をおぼえることだってあるでしょう。あるいは、保護者自身が、叱ることが子どもを育てるには、不可欠であると思っていることもあるかもしれません。

さらに、職場でも叱ることは、横行しています。一時はブラック企業として揶揄されましたが、いまでも、過度に叱ることを良しとする職場も多くあるといいます。

一方で、「叱ってはいけない!褒めよう!」という風潮も同じくらい見かけるようになっています。しかし、これについても注意が必要です。なぜ、「叱ること」がいけないのかについて、議論なくして、一方的に叱るを否定し、褒めることだけを推奨するのでは、ものごとの本質を見失います。

本書は、そんな「叱る」ことについて原点に立ち返り、考えるための1冊です。

叱ることは他者の変化への願い

そもそも叱ることは、2者間で成り立つ行為です。誰かを、誰かが叱り、そして、目指すべきは、叱られる人の行動是正です。もっというと、その人自身が変化することを目指すものであると言ってもいいです。

権力とは何か、を一言で言うならば「状況を定義する権利」であるとする考え方が、私には最もしっくりきます。

叱るが、発動されるのは、権力の非対称性が成り立つときです。自分に権力があらからこそ「人を変えたい」「変わっって当然」という発想が生まれます。

叱るの効用は限定的?

叱られる側の心理にたち、叱るの効用を捉えてみましょう。

権力のある人から、叱られたとき、叱られた側では、「ネガティブな感情」が生まれます。恐怖、不安、苦痛、悲しみなどです。このネガティブな感情の持つ力は強大です。なぜならば、人間の感受性というのは、ネガティブをまず避けるべきだと、太古の昔から刷り込まれているからです。ネガティブな状況を避けることができなければ、危険がいっぱいの自然界で生存が叶わないからです。

叱られると、脳の内側の奥深くの「扁桃体」において、強いネガティブ感情が作り出されます。そして、ネガティブ感情に対して、「防衛システム」を働かせるように瞬間的に判断がくだされます。

「危険を察知して、危険な状況を脱して生き延びる確率を、最も有利な方法を用いて、最大にするように反応せよ」という司令が下ります。

すると、例えば、子どもであれば、うるさくしていたけれど、静かにしてみる。あるいは、ゲームを辞めて、いったん机についてみる。という反射的な行動を取ることができます。

しかし、これはあくまで反射でしかありません。

とても大切なのは、この「防衛システム」が、人の「学びや成長」を支えるメカニズムではないことです。

相手の行動を瞬間的に変える効用はあっても、相手の考えや成長を中長期的に変容させる手助けは、「叱る」という行為では、できかねると想定するべきなのです。

事実として次のような研究成果も見出されています。

近年の研究では、扁桃体が過度に活性化するようなストレス状況は、知的な活動に重要だと考えられている脳の部位(前頭前野)の活動を大きく低下させることが確認されています。

本当に相手のことを願うのであれば、中長期的な「学びや成長」を支援するべきです。

もちろん、相手に生命の危険が及んでいる場合において(例えば、ハサミを振り回して遊んでいるとか)は、叱るによって、一時的な刺激を与えることは効果がありますが、あくまで一時的であるべきです。

大切なのは、その後です。「なぜハサミを振り回してはいけないのか」ということを本人が考え、次の行動を自ら選択するヒントを得ることができなければ、互いに不幸です。

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叱るには依存してしまう?

そして、「叱る」ことの恐ろしさは、叱る側に依存症のように身についてしまう習慣となることです。

叱ることで、目の前の人の言動が変わることを目にした叱る人は、自分の行動の有用性を知ります。また、同時に、叱る人は権力者であるという点もこれに拍車をかけ、叱ることを正当化します。

叱る人の判断は絶対です。その場において何が正しいのかを決める権利は、いつも叱る人の側にあるからです。

また、おそらく叱る人には、これまでの経歴や、あるいは文化的な圧力の側面から、「叱られて、我慢したり、耐え抜かなければ、より良い人になれない、あるいは、強くなれない」という先入観があります。これを生存者バイアスといいます。

生存者バイアスは、成功例だけに注目し、失敗例を見落としてしまう認知の歪みです。この現象は、叱ることを習慣的に行う人々の行動にも現れます。

叱る人は自身の経験から「叱られて成長した」という記憶を持っています。しかし、叱責によって挫折した人々の声は聞こえにくく、成功者の声だけが残ります。そのため、「叱ることは効果的だ」という誤った認識が強化されてしまうのです。

さらに、叱る側は即座に反応を得られるため、その行為が効果的だと錯覚します。長期的な悪影響は見えにくく、短期的な従順さだけが目に付きやすいのです。

このバイアスは、叱る人が自己の行動を正当化する要因となり、変化を妨げます。叱る人は「自分も叱られて立派になった」と考え、その方法以外を想像できなくなるのです。

忘れはいけないのは、そのようになれなかった多くの人たちの存在です。生存者バイアスによって「ほとんどの人はうまくいかなかった」という事実が覆い隠されていしまっている可能性があるのです。

では、どうしたらよりよく相手の「成長や学び」を引き出すことができるでしょうか。人が「成長したり、学習したり」するモードについても明確になっています。これは、「防衛システム」に対して「冒険システム」であると、著者の村中直人さんはいいます。

「冒険システム」が駆動している時、人は自ら選んだ道を行っています。

この時に艱難辛苦に立ち会っても、それは自分で選んだ道なので、自分の頭で考えてどうにか答えを出して、次のあゆみを続けようと工夫したり、頑張ったりすることができます。人は、そうして、自らの力でものごとに立ち向かっていった先に、本当の成長や学びをえることができます。

他者から与えられる「強要された我慢」や「理不尽な苦痛」では、人は強くならないし、成長もしません。

自分を取り巻く環境と折り合いをつけながら、「主体的に」行動し問題を解決するということを繰り返していくこと、こうした環境設定を応援すること自体が、人の成長や学びに関わっていきます。

冒険モードになるための鍵は、「自己決定」にあります。

最後に、<叱るときの注意点>をまとめてみます。どうしても叱らなければならないというシーンは、確かに存在しているからです。でも大切なのは、叱るに対する正しい認識と、使い方であることは、上述のとおりです。

1.「上手にすみやかに叱り終える」ことを意識する。
2.使っていいのは、「危機介入」もしくは、特定の行動を即座にやめさせる「抑止」のどちらか。

問題となっている状態がなくなったのであれば、すぐに叱り終えることが大切です。目的は、感情の発散ではなく、あくまで他者の行動抑制であるはずです。苦痛を与え続けることをやめなければなりません。仮に、叱り続けてしまえば、それは叱られる人に対する目的達成ではなく、叱る人のニーズを満たすだけの悲しい時間になります。

また、そもそも実際に「叱る」事態を招いてしまったことに対する自責も大切です。望ましい行動習慣を身に着けていれば、叱る必要はないからです。「何をしたら叱られるのか」「どんな行動が求められているのか」をセットで日頃から、伝えておくことが大切でしょう。

ネガティブ感情で「防衛モード」が過剰に働いてしまっている状態では、学習能力は著しく低下しています。こうしたモードでは、いくら言葉を重ねても、効果は薄いものとなります。

例えば、子育てについて新しい視点を得たいという方は、こちらの1冊「【子どもは、自ら育つ!?】フランスの子どもは夜泣きをしない ―パリ発「子育て」の秘密―|パメラ・ドラッカーマン」もぜひご覧ください。

自己決定の効用については、こちらの1冊「【自己決定がキー!?】静かな働き方 「ほどよい」仕事でじぶん時間を取り戻す|シモーヌ・ストルゾフ」もぜひご覧ください!

まとめ

  • 叱るの意図とは?――そもそも、叱るのは相手の行動是正にあるはずで、感情の爆発ではないです。
  • 叱るの効用は限定的?――瞬間的にしか機能せず、また、防衛モードを発動させ学習機会になりません。
  • 叱るには依存してしまう?――叱る人を依存させる恐ろしい効果もあるので、俯瞰して捉えましょう。
村中直人
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