- どうしたら、財務諸表から企業の内実を知ることができるでしょうか。
- 実は、「流れ」を感じるがキーです。
- なぜなら、企業の活動とは資本調達から投資、その活用自体が事業であるからです。
- 本書は、財務諸表を体感するための1冊です。
- 本書を通じて、企業の数字を感じ、慣れることができます。
ROEを分解せよ!?
前回の投稿「【決算分析はコミュニケーション!?】決算分析の地図|村上茂久」に続き、今回もこちらの1冊『決算分析の地図 財務3表だけではつかめないビジネスモデルを視る技術』をレビューさせていただきたいと思います。
前回の投稿では、財務諸表はコミュニケーションツールであるから、相手方の存在を意識すると、数字に意味が浮き出てくることについて知りました。その中で、投資家や株主が特に注目する指標としてROEについて解像度をあげてきました。
ROEとは、ROEというのは、当期純利益÷純資産(自己資本)です。株主のインプットである投資に対して、当期どれだけリターンが合ったのかを示す割合です。これの逆数をとることによって、回収期間を表現することができます。
伊藤レポートにおいては、日本企業のROEの低さが問題点として指摘され、海外の投資家の投資を集めていくには、ROE8%以上の水準をコミットする必要があるという提言がありました。
このROEですが、次のように分解することで、さまざまなことを知ることができます。
ROE=(①総資産÷自己資本)×(②売上高÷総資産)×(③当期純利益÷売上高)
これはデュポン分析と呼ばれています。米国の化学メーカーデュポンが取り入れたことにちなんでいます。
それぞれ①~③まで次を意味します。
①資本の生産性:資本をどれだけ効率的につかえているか?
②資産の生産性(効率性):資産からどれだけ効率的に売上高に転換できているか?
③売上高の生産性(収益性):売上高からどれだけ効率的に利益を得られているか?
①から③へと至る流れは、株主から調達した資金とこれまでに蓄積した利益(自己資本)という元手が、最終的に当期純利益になるまでにどのような道のりを辿ってきたかを可視化したものだと言えます。
①の資本の生産性では、自己資本をインプットとして、総資産をアウトプットとみなします。これは「財務レバレッジ」と呼ばれる指標です。
②の資産の生産性では、総資産をインプットとして、どれだけ売上高を獲得できるかという効率性をみます。これは「総資産回転率」と呼ばれる指標です。
③の売上高の生産性では、売上高をインプットとして、どれだけ当期純利益を獲得できるかをみます。これは「売上高当期純利益」と呼ばれる指標です。
つまり、①から③に至るまで、企業活動のジャーニーマップを描くことが可能になっているのです。
資本ジャーニーとは?
これら①~③の指標を元に、各社の状況を比較することで、どこが特に強みになっているのかを知ることができます。例えば、日本の主要自動車企業各社のスコアを見てみると、次のようになります。
トヨタ | ホンダ | 日産 | |
---|---|---|---|
ROE | 11.50% | 7.23% | 5.06% |
財務レバレッジ | 2.64倍 | 2.35倍 | 3.85倍 |
総資産回転率 | 0.47回 | 0.63回 | 0.51回 |
売上高当期純利益率 | 9.08% | 4.86% | 2.56% |
各社が高いところをBOLD&アンダーバーにしています。
これをみていくと、次のような見解を得ることが可能です。
- トヨタは、3社の中でROEと売上高当期純利益率が高く、利益を生み出す生産性が高いことがわかります。タクシーで例えると、燃費や修理の効率を良くすることで、利益を捻出するのが得意です。このひねり出し方が群を抜いているため、結果として元手から利益に転換できた割合(ROE)が最も高いです。
- ホンダは、3社の中で総資産回転率が高く、資産の生産性が高いのが特徴です。タクシーで例えると、保有している自動車のアイドルタイムを減らして有効活用し、多くの売上を上げるのが得意です。
- 日産は、3社の中で財務レバレッジが最も高く、資本の生産性が高いです。タクシーで例えると、少ない元手ながらも借り入れを活用して自動車の台数を増やすことが得意というイメージです。
このようにROEを分解することで企業の強みも弱みも多角的に分析することができるようになります。
また、同時に、お金の流れの意味を知り、会社や事業がどのようにできあがって、アウトプットという成果を生み出しているのか、そして財務諸表のどの数字にどんな意味があるのかについても解像度をあげて知ることが可能になります。
インプットをバックキャスティングできる!?
企業というシステムを深く知るということも、財務指標に見えている数字を使って行えるようになります。上記の資本のジャーニーについて知りました。重要なことは、お金には、流れがあるということです。すなわち、起点(インプット)と終点(アウトプット)があるということです。その過程において、付加価値が生み出され、企業の中には内部留保として蓄積されたり、新たな投資に向かったりします。
インプットがあれば、アウトプットがあります。
何を行った結果、どのスコアが上がるのか、について、重回帰分析という分析手法で、因果関係を知ることが可能になります。
この点において、独自の研究で企業活動の意義・意味を見出した企業にエーザイがあります。エーザイはESGと企業価値の実証研究において次のようなインプット&アウトプットの結論を得ております。
- 人件費投入を1割増やすと、5年後のPBRが13.8%向上する。
- 研究開発投資を1割増やすと、10年超でPBRが8.2%向上する。
- 女性管理職比率を1割改善(例:8%から8.8%)すると、7年後のPBRが2.4%向上する。
- 育児短時間勤務制度利用者を1割増やすと、9年後のPBRが3.3%向上する。
その結果、
エーザイのESGのKPIが各々5~10年の遅延浸透効果で、企業価値500億円から3,000億円レベルを創造することが示唆される。
ということが、わかりました。
詳細については、ダイヤモンド・オンラインさんが詳しいレビューをしていただいております。ぜひこちらもご覧ください。
このモデルに従えば、企業はESGの課題に取り組むことで、資本コスト(割引率)の低減を図り、マージンの改善を通じて市場付加価値をあげられることになります。
これらは、ESGに関する取り組みが、PBRとの間に相関関係があることを証明したはじめての試みということで、脚光を浴びています。
*PBR(Price Book-value Ratio)とは、日本語で「株価純資産倍率」と呼ばれる財務指標のひとつです。これは、企業の株価がその純資産(簿価)と比べてどの程度の水準にあるかを示す指標です。
エーザイの事例のように、財務指標を深く分析することで、アウトプットから逆算して、インプットの活動の内容を決め込んでいくことも可能になります。
まとめ
- ROEを分解せよ!?――企業の活動について解像度を上げることができます。
- 資本ジャーニーとは?――お金の流れと、企業体の強みと弱みを知ることができます。
- インプットをバックキャスティングできる!?――財務指標を詳細に分析することで企業アクションを選択することも可能になります。