【決算分析はコミュニケーション!?】決算分析の地図|村上茂久

決算分析の地図
  • いかに、財務諸表に慣れ親しむことができるでしょうか。
  • 実は、相手とのコミュニケーションツールであることを知れば、良いかも。
  • なぜなら、あらゆるツールはその本当の目的があるからです。
  • 本書は、財務諸表を現業から見つめるとても実践的な1冊です。
  • 本書を通じて、財務諸表の読み方を超えて、使い方を知ることができます。

財務諸表は相手ありき!?

財務諸表は、自社のための数字管理を目的としているわけでは必ずしもありません。これは、対外的な説明のためのコミュニケーションツールです。すなわち、相手方がいるということを念頭にみていくと、内容をスムーズに理解することができます。

ちなみに、財務諸表というのは財務会計の視点から作られるもので、自社のための管理用には、管理会計が使われます。

財務会計と管理会計には、異なる役割があります。財務会計は、外部の利害関係者向けに企業の経営成績や財務状況を報告することを目的としており、財務諸表(損益計算書や貸借対照表など)を作成します。これらは法律や会計基準に従って行われ、信頼性と客観性が重視されます。

一方、管理会計は、内部の経営陣向けに、経営判断や意思決定を支援するための情報を提供することを目的としています。予算管理やコスト分析など、企業内部で活用されるため、柔軟性が求められることが特徴です。

決算書の裏にいるステークホルダーを意識する。

まずはPLをみていきましょう。

P/Lステークホルダー
売上高顧客
売上総利益原価仕入先・工場など
営業利益販管費従業員・地域・取引先など
経常利益営業外損益金融機関等
税引前当期純利益特別損益M&A先の企業など
法人税国・地方自治体
当期純利益当期純利益株主
P/Lとステークホルダー

株主というのは、最後の最後利益が残った部分で分配をされていく立場だということがよくわかります。つまり、優先順位が低いということで、リスクを背負っている様子がよく見て取れます。こうしたステークホルダーの関係性を十分に理解することが、実はPLだけでも十分に可能であることに気づきます。

また、BSについても同じようにステークホルダーごとのリストを作ることができます。

  • 流動資産・・・顧客、取引先、仕入先
  • 固定資産・・・工場等
  • 固定資産(のうち、のれん・投資有価証券等)・・・関係会社
  • 流動負債・・・取引先、従業員等
  • 固定負債・・・金融機関等
  • 純資産・・・株主

こんなイメージです。また、BSについてはざっくりとして右から左へというお金の流れも意識してみることも重要です。金融機関や、株主等の資本家から調達した資金をもとに、工場・設備・ソフトウェアなどの設備に投資を行い、商いの基盤としているというイメージです。

さらにキャッシュフロー計算書の裏にいるステークホルダーの存在にも目を凝らしてみましょう。

  • 営業CF・・・顧客、仕入先、従業員、地域(土地)、取引先、地方自治体等
  • 投資CF・・・工場、M&A先の企業、投資先企業等
  • 財務CF・・・金融機関、株主等

誰から誰へ、というお金の流れを把握し、それを対外的に発表し続けて、合意形成を行っていくのが、財務諸表の役割ということになります。ストック(蓄積)とフロー(流れ)でこれらの数字をみていくことで、その本質に触れることが可能になります。

資本効率を考えよ!?

特に最近では、ROEという指標を代表として、投資効率で企業を評価する動きが出ています。こちらについては、過去の投稿「【ROICは投資家とのコミュニケーション!?】ROIC経営:稼ぐ力の創造と戦略的対話|KPMG FAS,あずさ監査法人」もぜひご覧ください。

重要なのは各ステークホルダーが何をインプットし、企業が付加価値を想像したうえで、何をアウトプットしているのか?という流れのイメージです。

B/S利害関係者P/L
売掛金顧客売上高
在庫、仕掛品仕入先 工場等原価
未払金、未払費用等従業員 地域(土地)
取引先等
販管費
主に負債の部・借入金等金融機関営業外収益
のれん等M&A先の企業等特別損益
未払法人税等国・地方自治体法人税
純資産(自己資本)
【インプット】
株主当期純利益
【アウトプット】
利害関係者から見る株主の関係

上述のROEというのは、当期純利益÷純資産(自己資本)です。

つまり、ROEは株主のための指標

株主のインプットがどれだけ、増えたか(減ったか)を割合で表現するのが、ROEということになります。割合であることがポイントで、それは、効率性を表すということになり、もっと言うと、効率性で他社や他の資本と比較され続けるという事実をはらみます。

企業視点でいうと、次のようなインプットとアウトプットの視点を持ちます。

ヒト・モノ・カネ【インプット】 → 生産活動 → モノ・サービス【アウトプット】

これが、株主(投資家)視点となると、

純資産(株への投資)【インプット】 → 企業活動 → 当期純利益【アウトプット】

というイメージです。

ROEが最近になって特に脚光を浴びているのは、伊藤レポートの影響もあります。このレポートでは、日本はイノベーション創出能力を持っている一方で、収益性は20年にわたり持続的低収益性の状況というパラドックスに陥っていることが指摘され、目指すべきは効率性つまりROEの水準向上と資本コスト意識を持つことであると提言されたのです。

伊藤レポートでレビューされている主なトピックスもあわせて記載します。

  1. 企業価値創造のための資本効率向上
    伊藤レポートでは、ROE(自己資本利益率)を中心とした資本効率の向上が重要であると強調されています。企業が持続的な成長を遂げるためには、資本を効果的に活用し、株主に対して高いリターンを提供することが求められます。
  2. 経営と投資家の対話強化
    企業が投資家と積極的に対話し、そのフィードバックを経営に反映させることが重要であるとされています。これにより、企業の経営方針が投資家の期待に応え、株主価値の向上につながるとされています。
  3. 非財務情報の開示強化
    財務情報だけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する非財務情報の開示も重要視されています。これにより、企業の長期的な成長戦略や持続可能性に対する投資家の理解が深まります。

これらのポイントは、企業が市場での評価を高め、持続的な成長を実現するための指針として重要な意味を持っています。

ちなみに、伊藤レポートはROEの目安として8%以上が重要であるというメッセージも同時に発信しています。伊藤レポート時点の日本企業のROEは5.3%と、ややストレッチな目標設定となっています。この目標設定には、資本コストが影響します。

資本コストとは、企業が資金を調達する際に必要となるコストのことです。これは、企業が自己資本や他人資本(借入金など)を利用して事業を展開する際、投資家や債権者に求められるリターンを指します。資本コストには、株主に対する配当期待や借入金の利息が含まれます。企業が新しいプロジェクトや投資を行う際、この資本コストを上回る収益が期待できるかどうかが判断基準となります。企業の収益性や成長性を評価する上で重要な指標です。

伊藤レポート内では、グローバルな機関投資家が日本企業に期待するションコストの平均が7%超であるとの調査結果がレビューされており、これを元に、ROE8%水準の必要性の根拠としています。

8%を超える水準で約9割のグローバル投資家が想定する資本コストを上回ることになる。

ちなみに、海外企業では、ROEは、米国22.6%、欧州15.0%と、日本企業の低さが強調されてしまう結果となっています。

投資効率の観点においては、こちらの1冊「【仕事は、本来正しく“厳しい”!?】ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか|村田聡一郎」も外せない視点です。ぜひご覧ください。

ROE8%の意味とは?

ROEは、時系列に見直すことができます。一定の投資を何年で回収できるのか?という視点です。

ROE(%)10202530
回収(年)1002012.510
投資回収期間

投資回収期間は、ROEの逆数で求めることができます。伊藤レポートの目標値8%では、回収まで12.5年かかることがわかります。

投資においては何年で投資資金を回収できるのかを、まずはベンチマークとして考えることが重要だと言えるのです。

これはファイナンス理論における「投資回収法」というもので、回収期間を見ることで簡易的に投資の良し悪しを判断することができます。

数字には、常に相手があり、その意味があります。その内実を知ることで、さらに数字をコミュニケーションに活用する視点を得て、理想の判断へ向けた足元固めをすることができます。

次回も引き続き本書『決算分析の地図 財務3表だけではつかめないビジネスモデルを視る技術』について、深くレビューをしてみたいと思います。ぜひご覧ください!

まとめ

  • 財務諸表は相手ありき!?――相手とのコミュニケーションを行うための数字です。
  • 資本効率を考えよ!?――投資期待値を集めるには、資本をどれだけ増やせたか?の効率性がキーです。
  • ROE8%の意味とは?――回収期間12.5年を実現するスコアです。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!