【デジタルの次を見通せ?】ビヨンド・デジタル――企業変革の7つの必須要件|ポール・レインワンド他

ビヨンド・デジタル――企業変革の7つの必須要件
  • 日本の失われた30年、どうしたら今あらためてよりよい成長をもたらすことができるでしょうか。
  • 実は、デジタル以後の世界での活動をいかに見据えておくかが大切です。
  • なぜなら、デジタルというツールを活用し、どのように活動をするかが企業や人の永続性を担保するためです。
  • 本書は、そんなデジタルを通り越し、そのさきの世界でよりよい活動を行うためのヒントです。
  • 本書を通じて、これからの時代において、とくに検討するべき重要な視点を得られます。
ポール・レインワンド,マハデバ・マット・マニ
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日本再興のキーは?

失われた30年という言葉に、どんな実感値があるでしょうか。

2024年2月には1989年のバブル期以来初めて、日経225がその過去の記録を突破し、その後も上昇を続けています。さらに、2024年8月には40,000ポイントを超え、新たな歴史的高値を記録しました。日本再興の兆しのような味方も一部合ったかのように見えていますが、この間、世界の経済はどのように動いていたでしょうか。

1989年から2024年までの期間で、米国とヨーロッパ先進国の株価は大幅に向上しているのです。

米国のS&P 500指数は、1989年の約300ポイントから2024年には4,500ポイントを超える水準に達し、およそ15倍に上昇しました。欧州の主要指数であるドイツのDAX指数も、1989年の約1,400ポイントから2024年には16,000ポイント以上に成長し、約11倍の上昇を見せています。これらの上昇は、主にテクノロジー産業の発展と経済のグローバル化によるものです。

ちなみに、先進国と新興国の株の値動きについても、あわせてレビューをしてみます。先進国の株式市場は一般的に成熟しており、経済の安定性や企業の収益性が高いため、長期的に安定した成長が見込まれます。特にテクノロジーや消費関連の大企業が市場を支えています。

一方、新興国の株式市場は成長余地が大きく、高いリターンの可能性があるものの、政治的リスクや経済の変動性が高く、値動きが激しくなる傾向があります。新興市場は特定のセクターや資源に依存することが多く、その影響で大きな変動を見せることがあります。

こうしたことから、日本株の値動きは、だいぶ新興国の様子にリンクし始めているという見方もあるかもしれません。

安定的な成長を続ける世界の国々と日本の状況が、相対的な貨幣価値でも現れており、「安い日本」のイメージが浸透しつつあるのではないでしょうか。本当にこの30年は、日本にとって失われたと言ってよいほど成長がみられなかった時代かもしれません。

日本企業がこの先、どのような変革の方向性を見出すことがより良いでしょうか。

大切なのは、足元です。

まずいは一度、「自分たちは何をする会社なのか?」という自社の存在意義を再構想することだ。

このように著者ポール・レインワンドさんらは、説きます。経営理念が堅実から乖離してしまっていて、その一方で中期経営計画は各部門の前例踏襲型に矮小化してしまっている現状が多くの企業でみられるのではないでしょうか。そのような状況には、部分的な視点では、新たな方向性を見出すことはできません。全体的、大局的なものごとの見方を行いながら、「どういう顧客に・どういう価値を提供するのか」というぶれのない北極星を見定めることがキーとなります。

企業というのは、価値の創造と交換の主体です。大切なのは、外部とのやり取りの瞬間を定義することです。その事によって、価値のあり方、相手方が見えてくる中で、自社内部の最適化へと目線が移るようになります。これまで長らく経営を行ってきた企業ほど、「これまでの経験」という確固たる積み重ねを主体に、ものごとをみてしまうことも多々あるかもしれません。でも、それでは、抜本的な改革を行い、これからの時代にふさわしい企業体を再構築することは、困難です。

大切なことはN=1です。

どんな時も解像度高い1次情報をもとに、仮説を研鑽してみましょう。多くのデータが取得できるからといって、茫洋とした分析結果に溺れるようなことのないように、目の前の1人の顧客に向き合いましょう。彼・彼女は、なぜあなたの会社と付き合ってくれているのか、そこからえられる価値は何なのか、今後の取組についてはどのような共創ビジョンを描いてくれているのか、あるいはそうでないのか・・などなどの視点により、互いの関係性を解像度高く描写していきましょう。

そして、そうした1次情報を積み重ねていくのです。するとおぼろげながら、自社の役割や存在価値が見えてくるはずです。デジタルの時代だからこそ、リアルなタッチポイントも含めて価値の交換の原点を見つめていくことにヒントを見出しましょう。

柔軟な強さを規定することは?

また、自前主義からいかに脱却できるかということもとても重要な視点です。長らく日本企業では、自前で何事も行って対応していくという対応方針が優勢でした。

これまでのように特定の業種業態が明確に規定されており、それが右肩上がりで成長していくことがある程度予測できる環境下では、自社の存在意義と提供領域を幅広く確保して、自前でやることがコスト圧縮に繋がり、多くの利益確保をするために理にかなっていました。

しかし、今現在は、変化の時代。市場が10~20年で大きく成長したり、衰退する可能性のある中でなんでも自前でやっていくことには、リスクがあります。スピードが鈍るし、設備投資をしてしまえば、身動きが取りづらくなってしまうのです。

大切なことは、社会との関係性の中で、新しいビジネスの種を見つけて、共創を行っていくというスタンスです。

そういう意味では、近年多くの企業で掲げられているD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)という言葉が示す通り、ダイバーシティ(多様性)のみならず、インクルージョン(包容)を組織全体にわたって浸透させることがカギである。

そういした企業・組織全体のスタンスの変容が何よりも求められている時代において、特に重要なのはリーダーシップです。経営トップが、上述のような変化の必要性、自社の存在意義の再定義、外部連携や、D&Iのスタンスについて必要性を感じ、理解し、そして組織全体を動かしていくことが、何よりも欠かせないことになります。

新しいリーダーシップのあり方についても特に重要でしょう。これからのリーダーシップについては、こちらの1冊「【みんなリーダーになれる!?】リーダーシップの旅~見えないものを見る~|野田智義,金井壽宏」などがとても参考になります。

特にこれからの時代に成功するリーダーを6つの特徴で描き出すとすれば、次のような要素になります。

1)戦略的な実行者
2)テクノロジーに精通したヒューマニスト
3)高潔な政略家
4)謙虚なヒーロー
5)伝統を尊重するイノベータ
6)グローバル思考のローカリスト

全体を俯瞰してみると、バランスというキーワードが浮かんできそうです。ものごとの間にバランスを見出し、絶えずその「重心を再検討することができるリーダー像」を上記6つの特徴から知ることができます。

実はトップのリーダーシップも特に重要ではありますが、対外的に関係性を構築していく現場でのリーダーシップをいかに引き出していくのかという視点も欠かせません。

伝統的な雇用主と従業員の関係を反転させ、従業員を価値創出の中心に、またリーダーシップチームの優先事項の最上位に置くという形で、企業と従業員の社会的契約を再定義する、ということだ。

従業員を全面的に組織に関与(コミットメント)していただくには、「契約」を根本的に見出す必要があります。ここでいう「契約」とは法的文書に基づく契約という内容だけではなく、企業と従業員が互いに結ぶ、共存共栄のための暗黙の契約にも至る、広義のものです。

これまでの雇用契約というのは、企業側から従業員側への一方的なものでした。従業員に求められるのは給与支払の条件である一連の活動の遂行であり、通常はそこで責任が終了していました。

しかし、現在の契約には、報酬や福利厚生以外にもさまざまな要素が含まれ始めていることを実感されているのではないでしょうか。生きがいややりがいを含めた、舞台としての価値をいかに提供することができるかも、企業・組織側の課題となっています。従業員個人のパーパスと企業のパーパスがすり合わされたその先に、共存共栄が初めてなし得るということを意識しながら、相互理解を深めていく活動が欠かせないものになっています。

こうした関係性をアップデートしていくためにはいくつかの施策が検討されるべきです。例えば、次に掲げる6つのテーマなどがそれに当たります。

1)パーパス;企業の存立目的を有意義な形で明確に伝えること。
2)貢献;イノベーションや貢献を通じて、解決策に参加する機会を従業員に提供すること。
3)コミュニティ;企業文化の形成に従業員を参加させ、支えとなるチームを構築すること。
4)能力開発;従業員がビヨンド・デジタルの時代に求められる人材になるべく支援をすること。
5)手段;自社が力を入れてきた、差別化するケイパビリティの確立と規模拡大のために、必要な時間と経営資源を提供すること。
6)報酬;従業員がいかに価値を感じるかをケアしていくため還元のあり方を再設計すること。

従業員とともに、価値を創出し続ける企業という組織のあり方をアップデートしていきましょう。

いつの世もビジネスでは顧客を知ることが必要だが、ビヨンド・デジタルの世界では知見、それも専有的知見の必要性がさらに差し迫ったものになる。

顧客の根本的なニーズにどこよりも的確に、対処できることが企業の勝利の条件となるのです。しかし、難しいのは、その顧客のニーズや要望というのは、言語化されていない上に、時間とともに絶えず変化を続けていくこと言うことです。当然、他社もそのことに気づいており、専有的知見として何らかの方法で、顧客の要望やニーズを獲得する方法を確立してくるでしょう。

だからこそ、競争上の差別化要因を強化するべく、顧客との直接的な関係性の中で、貴重なデータを獲得するための何らかの方策に先行投資を行いながら、実現性を担保し続ける取り組みを積極的に検討するべきです。テクノロジーを味方につけて。

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いつ始めるのか?

木を植える最も良い時期は、20年前だった。
次に良い時期は、いまである。

これは中国の古いことわざです。いつ始めるのか?ですが、絶えずその答えは「いま」であり続けています。

過去の取り組みに欠陥があり、いまとてつもなく不利な状況であっても、私たちは絶えず前を向き、ビヨンド・デジタルに向けた新しい取り組みを検討していくことができる立場にあります。

これをポジティブにとらえて、今から始めてみることです。前向きな気持ちになれば、きっと負債が資産として見えてくる余地も自ら見出すことができるかもしれないのです。

まとめ

  • 日本再興のキーは?――ビヨンド・デジタルの中長期視点での変革を行っていくことです。
  • 柔軟な強さを規定することは?――リーダーシップ、従業員コミットメント、顧客理解です。
  • いつ始めるのか?――「いま」です。
ポール・レインワンド,マハデバ・マット・マニ
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