- 生きることを、ケアの現場から哲学するとどのようなヒントが得られるでしょうか。
- 実は、「リズム」に集約されるかも。
- なぜなら、人はみんな固有のリズムを発しながら、受け取りながら生きているからです。
- 本書は、人とともに生きることを捉える1冊です。
- 本書を通じて、自らが置かれる状況を俯瞰する1つの視点を得られるでしょう。

リズムに注目してみよう?
本日も前回の投稿「【ケアとは、相手の存在を認めること!?】ケアとは何か~看護・福祉で大事なこと|村上靖彦」に続き、村上靖彦さんの1冊を取り上げさせていただきたいと思います。今回の本書『交わらないリズム:出会いとすれ違いの現象学』は、現象学者である村上靖彦さんが、ケアの現場で感じた人と人のコミュニケーションややり取りについて、感じ、お考えになった内容が収録されています。
その中で、「リズム」について特に注目されています。多くの日本語の慣用句もリズムと関わり、例えば「馬が合う」「拍子抜け」といったものが思い浮かびます。また、「息が合う」「一息入れる」「息が詰まる」というように、同じリズムで繰り返される息についてなんらか深いものを感じているような感覚の言葉もあります。
生きているということは固有のリズムで生きているということになります。そうした中で、他者のリズムと自分のリズムがどうも合わない、ギクシャクすることを感じることもあるでしょう。
言い換えると、リズムは単数ではない。リズムは複数の線が絡み合ったポリリズムとして生じる。
プレリュード――リズムとしての生
バラバラになることもあれば、調和することもある運動がポリリズムと形成していきます。
こうした視点は、まさに人と人が共に生きていくことにつながっていきます。固有のリズムをもった者同士が共に生きていく時、波形が融合するように新たなものごとがそこから生まれてくる可能性を感じることができます。
リズムを引き込もう!?
リズムは調和も生み出しますが、衝突も生み出します。そこがいいところです。村上靖彦さんは、ケアの現場で、さまざまな家族のあり方を見ていく中で次のようなことに気づいたといいます。
孤立した家族は、また、「ハプニング」が乏しいと言うことができる。
3 運と偶然
このハプニングとは、トラブルも含まれますが、幸運なできごとも含まれます。そうした、偶発的なできごとのことをハプニングと捉えてみます。そうしたときに、孤立無援になっている状態の家族は、外からの刺激が分断されている状態になってしまっているので、内部に出来事を作り出すことができません。
偶発的なできごとの活用で、家族は豊かになり、変貌します。家族が不変のものでないということを知り、そして、互いに結束や信頼関係を醸成していくものです。
例えば、暑い夏の日に、外から子猫の鳴き声が聞こえてきて、家族とともに探しに行くと捨て猫だったとしましょう。そこからその子猫を家族として迎い入れ、最初は手探りだった動物を育てるというハードルを乗り越え、新たな家族として迎えていくことで、家族が変化し、そしてその構成するメンバー同士が新しい関係性を見出していくことができます。
こうしたできごとが家族の中にもたらされるには、外の世界と接続している必要があります。
また、同時にゆとりがあるということも重要です。ゆとりがなければ、外からもたらされた偶発性を内部に取り入れる余地がなくなるからです。家のことで精一杯である場合、上記のようなときに子猫を迎い入れることは難しいでしょう。
ゆとりというリズムの場は、偶然のハプニングへと開かれるための条件でもある。
3 運と偶然
この点については、とくにJ・D・クランボルツさんの「計画的偶発性」を思い出します。偶発性を積極的に取り入れることが、幸運を見出すヒントになります。ぜひこちらの1冊「【幸運は引き寄せられる!?】その幸運は偶然ではないんです!――夢の仕事をつかむ心の練習問題|J・D・クランボルツ,A・S・レヴィン」もご覧ください。


死角こそが個別性!?
リズムや偶発性について、よく目を凝らしていくと、「死角」をもっていることがこれらの起点になっているかも知れないと捉えることができます。どういうことかと言うと、人はそれぞれ固有のリズムをもっています。そしてそのリズムを構成する1つの要素として、同じく固有の「死角」があるのではないかということです。重要なのは、その「死角」は他者から見ることができて、「自分だけが」認識できないものということになります。
簡単なことで言えば、自分の背中だったり、そうした物理的な視点以外でも、無意識のような領域についても同様のことが言えるでしょう。
自分がまだ気づいていないなにかが、あり、それを他者が知っている状態が、リズムとリズムの出会いをより複雑に、偶発的なものにしていきます。
身体の余白は身体そのものではなく、身体をもつがゆえに見えなくなる死角であり、身体の絶対的な外部だ。
3 後半<藪の中>の殺人現場の分析
私たちが巻き込まれている状態には、往々にしてこうした「死角」の存在が際立っているように思えます。誰かが、知っているが、誰かが知らないそういう状態において、ものごとはより複雑にまるで未知の生き物のように蠢き出し、全く予想だにしない結果を生み出していきます。
リズムにはいくつかの種類があります。
1.社会規範が要請する一定のテンポ。
2.目的に向けて組み立てられる社会的な行為のリズム。
3.居場所において(社会のテンポから解放された)リズムのゆるみ。
4.自発的で無目的な遊びのリズム。
これらに対して、対立軸をなすものとしてもう1つのリズム、逆境が持つカオスをはらんだ無秩序なノイズがあります。自分には、死角があることをよしとしながら、こうしたリズムを上手に取り入れてみることがキーです。新しい可能性に向けて、活動を続けていきましょう。
まとめ
- リズムに注目してみよう?――人と人の出会いはリズムの調和と衝突です。
- リズムを引き込もう!?――偶発的なことから、可能性が広がっていきます。
- 死角こそが個別性!?――自分だけが知らないことがオリジナルの起点です。
