【ビジョンを持ち、語ろう!?】ひとりの妄想で未来は変わる|佐宗邦威

ひとりの妄想で未来は変わる
  • どうしたら、新たな創造で世界・社会と積極的に関わっていけるでしょうか!?
  • 実は、これまでのやり方を踏襲していても未来はないかもしれません。
  • なぜなら、世界は、社会は、変化を続けているからです。
  • 本書は、勇敢に“外”に飛び出すための勇気をくれる1冊です。
  • 本書を通じて、VISIONに言葉を与え、素直な行動を引き出す力を得られるでしょう。

インサイド・アウトの世界観へ!?

既存の事業だけでは、不確実な世界を生き抜くことは心もとない時代になってしまいました。成長曲線が鈍化して、さらに不確実なファクタであふれる社会を生き抜くには、深化だけでなく、探索が不可欠です。これまでのやり方にだけ縛られているのではなく、前例を疑い、本当に意味のあることにフォーカスして、新しい取り組みを作り出すことに勇敢になる必要があります。

事業部制、NDA、工数管理、現場ボトムアップのQCサークルなど、さまざまな生産性向上の取り組みが作られ続けてきました。しかし、生産性向上だけに特化して、いくことはリスクになりうることを肝に銘じる必要があります。

例えば、フィルム業界を俯瞰してみると、自社の取り組みを俯瞰した視点で見つめられた富士フイルムと、そうでなくて、カメラ業界に縛られ続けたコダックの両社を比べると明らかでしょう。富士フイルムはカメラ市場がデジタル化の波で、大幅に縮小することを予期して、そのために具体的な策を講じていました。自社の技術を振り返り、それを研鑽し、活かせる市場を探索し続けていました。結果、現在ではヘルスケア事業が、彼らの屋台骨を支えています。事実、ヘルスケア事業(アスタリフト等の化粧品事業含む)のセグメント別営業利益は、2023年3月期において9,179億円。対して、イメージング事業(カメラ関連を含む)は、4,103億円でした。全社的な営業利益が28,590億円なので、実に、3分の1をヘルスケア領域で創出していることになります。

コダック社は、2020年において、次のような決算レビューがされています。

売上高連結:10億2900万USD (2020年12月期)
営業利益連結:△8400万USD (2020年12月期)
利益連結:△5億4100万USD (2020年12月期)
総資産連結:12億4800万USD (2020年12月31日現在)
コダック社決算・出典ウィキペディア

本業で赤字となり、厳しい結果です。実に、グループで従業員4500人を抱える大企業でありますが、抜本的な浮上策を見いだせていないように見えます。

いままでのやり方を踏襲していても、未来はないような気がする。

第1章 創造の生態系を生むレシピ

小手先ではなく、抜本的に新たなモデルを作らない限り、変化する市場において自社を永続させることは難しくなっているのかもしれません。経営層や上司は答えを持たないまま変革やイノベーションの号令を出していますが、実際に現場で行っている施策は、これまでの延長線上ではないでしょうか。

起点を組織にするのではなく、N=1、つまり特定のひとりにしていくと、また違った世界観が見えてきます。創造の世界の代表例が起業家です。かれらは、とても個人的なペインに感化され、独自の経験をもとに世界を変えるコンセプトを見出し、多くの人を魅了しています。常に変化しながら、自分や会社を見直し続けて、再定義を繰り返しビジネスを急拡大させようと試みています。

その原点には、パーソナルなペイン(「不」)と、そして好奇心があります。これらが彼らの最大の資産であると言ってもいいかもしれません。どこまで社会をより良い方向へ変えられるか、自らにワクワクを抱いている、それが何よりベンチャー企業の強みです。そんな強みを持つ企業には、より多くの優秀な人材が集まります。志を同じくし、同じ船にオンボーディングしながら、共に冒険を志す仲間たちです。

イノベーションを素直に求めるのであれば、外の情報を重視しないほうが得策です。必ず原点には、個人的な内発的動機を重視するべきです。個をなくし、外の情報をもとに自分で判断するアウトサイド・イン(Outside-in)の世界から、個人の妄想や主観を外に出して進むためのインサイド・アウト(Inside-out)という別の目クトルが必要です。

既存の組織のイノベーション活動は、この違う動力源で動く新たな世界に対応したマインドセット、すなわちOSをアップデートしないまま進めてしまうプロジェクトが多く、それが失敗を生む根本的な原因になっています。

起業家のOSについては、こちらの1冊「【「手中の鳥」を探せ!?】エフェクチュエーション|吉田満梨,中村龍太」もぜひご参考にしてみてください。大変刺激的な1冊です。

創造する組織を目指す!?

生産に特化して、生産性を突き詰める組織と、志を胸に創造を志向する組織の違いを見ていきましょう。

生産する組織創造する組織
OSのタイプ機械型OS生き物型OS
駆動の仕方インセンティブによる目標内発的動機を生む人
価値のつくり方効率的な分業創発する場
方向性の決め方トップダウンで決まる戦略ボトムアップで生まれる意志
業務の回し方効率性を最大化する改善新たな知識をともに生む創造
「生産する組織」と「創造する組織」の比較

「生産する組織」は規模の経済を味方に、生産性を最大化して行きます。一方で、「創造する組織」は多様性による持続的知識創造を最大化させていきます。根本的に動力源が異なるため、適切な市場やシーン、タイミングが異なります。

両利きの経営における、深化と探索を見て取れる視点であると思います。

創造のエッセンスを4つの視点で見つめながら、「創造する組織」の設計に挑戦してみましょう。

【人】辺境に眠る妄想家に仲間との出会いをつくる
  →人は、仲間の存在により、大きな存在になっていく。
【場】次のアタリマエを育てる創造の土壌をつくる
  →外に開かれた多様な人が出入りする場を育てていく。
【意志】生活者、会社、社会の文脈を紡ぎ直し、根っこのある意義を発信する
  →個人の妄想や組織の文化から未来に向けて発信される意志を持ち続けていく。
【創造】自分たちに合った創造の型をつくる
  →突然変異を起こすための揺らぎが仕込まれた創造サイクルを回していく。

生き物の特徴は、外との双方向の矢印(相互作用)によって、外界から情報を得て、自分たちの進む方向を決める、予測不可能な複雑的なシステムである。

COLUMN 機械の世界と生き物の世界の原理

生物モデルをトレースしよう!?

上述の生産する組織が、機械的であるならば、創造する組織とは、生物的であると言えるでしょう。

機械工学の世界は、モノ=無機物を対象に扱い、同じ環境の条件においては、あるインプットをしたら同じアウトプットになることを前提とします。予測可能な再現可能性を重視します。外界から閉ざした環境をつくり、あるインプットに対するアウトプットが再現可能で予測できるようにします。

モノづくりは、人と機械の分業によって効率的なフローを作っていくため、人に求められるスキルは一様なほうがよいです。生産性を最大化させるために戦略という一元的な基準を定めることで短期のうちにパフォーマンスを向上させ、そのフローを改善しながら、効率を上げていきます。人が中心にはおらず、人的な要素を排除するように仕向けてくるシステムです。

一方で、創造する組織は、極めて人的です。有機物を扱う、生命科学のようにしなやかで、豊かな印象を得ます。常に細胞が生き死にを繰り返し、自らを生み出しながらも、その形を保つオートポイエーシス(自己創出)がキーになります。細胞は常に変わり続けながら、そのなかでひとつの秩序を保ち続けます。

創造する組織は、細胞のように有機的で、アメーバのような形をしています。

創造する組織は、この生命科学的な世界とよく似ている。

COLUMN 機械の世界と生き物の世界の原理

エネルギーの源泉は、いろりろな人が潜在意識として抱える欲望やイメージを具体化して、そのDNA(=文化的遺伝子・ミーム)を世に残したいという、内発的な生命のエネルギーとして描写されます。

機械の世界生き物の世界
モデル生産設備
外部からの動力
DNA・ミトコンドリア
外的環境との相互作用
一度設計したら、形が変わらない無機物自然に形が変わる有機物
外との境界境界を設け、外界からの影響を遮断する外界との境界がゆるく、影響を受ける
動き方同じ条件で同じ方向へ再現可能に外部環境との相互作用で再現不可能
「機械の世界」と「生き物の世界」の比較

まとめ

  • インサイド・アウトの世界観へ!?――内発的な志を資本にものごとを始めてみましょう。
  • 創造する組織を目指す!?――2つの組織モデルを上手に使い分けましょう。
  • 生物モデルをトレースしよう!?――機械と生き物をメタファーに自己理解を深めましょう。
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