- 誰かや何かと比較しないで、自分自身の人生やものごとの本質を見極めるためには、何が必要でしょうか。
- 実は、いわゆるマインドフルネスの方法を実践してみることがいいかもしれません。
- なぜなら、脳と心臓はつながっていて、個人の幸せと人間全体の健全さは、これらの協調によってもたらされ、マインドフルネスは、これらをひとつにすることを助けるからです。
- 本書では、小説のような、フィクションのような語り口で、脳外科医の壮絶な半生をたどりながら、マインドフルネスの方法と効用を語ります。
- 本書を読み終えると、本書に書かれているマインドフルネスの方法論だけではなく、本書全体の物語から感じる印象で、心動かされる不思議な感覚を味わえるでしょう。
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本書の起承転結
本書に登場するジム、中学2年生からその半生が、一人称で語られます。はじまりは、1968年カリフォルニア州のランカスターという砂漠の街の小さなマジックショップ、ルースという店主とのなにげない出会いからです。
「マジックがバレないのは、人が本当にそこにあるものじゃなくて、あるはずのないものを見るからじゃないかしら。人の心はおかしなものだから、トリックがうまくいくの。あるだろうと思ってるものしか見ないからよ。」
1 消えそうな火を大きな炎に
こんな不思議な話から、ルースのジム少年への「本物のマジック」のレクチャーが始まります。ここで教えてもらう「マジック」は次のような内容です。
マジック1「からだを緩める」は、「ボディスキャン」と呼ばれる瞑想で、自己認識力(セルフアウェアネス)、つまり、いまの自分自身への気づきを高めるワークです。
13 みんなの旅が始まった
マジック2「頭の中の声を止める」は、「注意力のトレーニング」と呼ばれる毎度フルネスの基本のワークです。呼吸などの1点に注意を向けることによって、「頭の中の声」いわゆる雑念が静まってきます。
マジック3「心を開く」は、「慈悲の瞑想」そして「わたしと同じ(Just like me)」と呼ばれる瞑想で、他者への思いやりや共感を高め、目の前の人や出来事をあるがままに受け入れることを促します。
マジック4の「なりたい自分を描く」は、自分のり想像を鮮明に描くことにより、目標への具体的な行動を計画し、実行することを可能にします。また、未来をポジティブにとらえ、自己肯定感を高めます。
こんな「マジック」をレッスンしてもらったジムは、実践します。
そして、いろいろと問題を抱える家族の事情を乗り越えて、夢である医師になることに向かって邁進し、見事その夢を叶えてしまいます。さらに、医師になる夢だけではなく、豪邸、ポルシェ、島、お金・・など、誰もが羨むような生活まで手にしていきます。新しい医療機器の会社への投資で莫大な資産を手にしていたジムですが、ドットコムバブルが崩壊し、急転直下、その全てを失ってしまいます。
全てを失ったジムは、当時のルースとのやり取りを記録していたノートをもう一度、開き、瞑想を始めます。そして、当時はよくわからず「?」をつけておいたルースの言葉に気が付きます。
・モラルのコンパス
・欲しいものが必ずしも自分にとっていちばんいいものとは限らない
ここからもう一度、ルースの言葉と向き合いながら、ジムは他者のために働く医師になることを目指します。
自分の傷を癒やしたいなら、他人の傷を癒やせばいい。
10 心のコンパスに従う
もう一度、医師であることに集中するときだった。
これまでの名誉や地位を捨て、新天地での医療センター設立という他者のためにはたらくという経験を通じ、自分自身ではなく人のためにはたらくことの素晴らしさや生きがいを実感していきます。
そして、そして他者のために生きる素晴らしさや、脳科学と心の関係などについて研究をさらに深めるために、スタンフォード大学で「共感と利他精神研究教育センター(CCARE)」を設立するのです。
脳外科としてのルースの教えの解釈とは・・?
ルースが心のコンパスと呼んでいたものは、迷走神経を通して脳と心臓の間でやり取りされる、ある種のコミュニケーションだ。脳が心臓に送るよりもはるかに多くの信号を心臓は脳に送っていて、人体の認知と感情のシステムは知性を持つこと、また心臓から脳への神経結合はその逆よりはるかに多いことは研究で証明されている。人間の思考と感情はどちらも強い力を持っているが、強い感情が思考を黙らせることができる一方で、思考によって強い感情を追い出すことはほとんどできない。実施あ、何かを反芻したり、ひっきりなしに考えてしまう引き金は、強い感情だ。僕たちは、頭は合理的で心は人間的だと考えがちだが、つまるところ頭と心はひとつに結ばれた知性の一部だ。心臓の周りの神経網は、人間の思考と理性に欠かせない部分だ。個人の幸せと人間全体の健全さは、頭と心の融合と協調に左右される。ルースが僕に与えてくれた訓練は、体の中の二つの頭脳、つまり頭と心の両方の脳をひとつにすることを助けてくれるものだった。
10 心のコンパス
ちょっと長いんのですが、引用するとここがポイントかなと思いました。
自己認識などを取り扱う書籍において、「身体性」を取り戻すことが主題に語られることが多い印象です。マインドフルネスも、実は頭でものごとを考えるのではなく、体を使って心を取り戻す作用を期待しているように思います。
仏教の考え方でも、まずは体を重視しているようです。とくに坐禅などは、まずはひたすら何事も期待することなく、「ただ坐る」ことを目指します。
ジムによると、心臓(心)→頭への神経系は、その逆よりも多いわけですので、ルースや仏教の智慧というのは科学的にも正しい(理にかなっている)ということが証明されているのですね。
「【坐禅の真の坐り方とは?】考えすぎない生き方3|藤田一照」で、藤田一照さんも「ただ坐る」ことを実践する大切さを説いていらっしゃいました。
でも、ジムが、ルースから本当に、学んだこととは・・?
ルースはテクニックと練習法を教えてくれたけど、僕と一緒に過ごし、僕に関心を注ぐことで、いちばん大切な本物のマジックは何かを教えてくれた。それは、自分の心の傷だけでなく、周囲の心の傷を癒やす、共感の力だ。それがいちばん大きな贈り物で、何よりも偉大なマジックだ。
10 心のコンパスに従う
私たちは、一人ではないのです。
誰か、というか、全ての人と関係し合いながら生きているということを忘れてはいけません。
しかし、ルースは、本当に実在する人なのでしょうか。そして、なぜルースはここまでの叡智を身に着けていたのでしょう。ジム少年になぜ、自身の考えを伝えたのか・・。
でも、確かなことは、ジム少年、大人のジムにとって、ルースはよりよい人生を歩む上で必要な方法論だけを教えてくれた人ではありませんでした。ジムの人生を通して、寄り添ってくれた大きな存在だったのだと思います。そして、ジム自身もいつしかそうして人のためにはたらく大きな存在になっていった・・ルースは、そんな導きをくれた超自然的な存在だったのかもしれないということでしょうか。
まとめ
- 本書の起承転結――本書は、物語(フィクション)のようにマインドフルネスの効用や共感・利他精神について語られます。読み物としてもとてもおもしろい内容になっています。
- 脳外科としてのルースの教えの解釈とは・・?――頭と心はひとつ。そして、心が頭に与える影響は多大です。身体を取り戻すことから、自分と向き合うことを始めましょう。
- でも、ジムが、ルースから本当に、学んだこととは・・?――マインドフルネスというテクニックだけではなく、「共感」の力をも信じてみましょう。
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